ヴィジュアル☆ベトナム／ベトナムデザインの大使：／D&ADにおけるライスクリエイティヴの作品／MBASSADORS OF VIETNAMESE DESIGN:／THE WORK OF RICE CREATIVE IN D&AD

パッケージ標本（Packaging specimen）©Rice Creative, 2014

2014年５月、サイゴンを拠点とする総合デザイン事務所「ライスクリエイティヴ」は、1962年から創造性を促し支援する非営利団体（NPO）D&ADから依頼を受けた。2014年度の年次報告向けに、何かベトナム関係のデザインをしてほしい、と。 チームはすぐに仕事に取りかかり、１ヶ月後にはコラージュ作品７点とポスター１点を提出。9月に発表された報告書では、全600ページにわたり昨年の広告とデザインの最高峰が紹介され、ベトナムの溢れるほどの文字、模様、画像がその巻頭と巻末を飾った。２つのモノクロ作品は仏領時代にさかのぼったタイポグラフィの例がひしめく。昔のトーンながら、賑やかな文字とロゴは潜在的に現代ベトナムへとつながっている。他の３つのカラフルな作品は乗り物、動物、人間に着目し、あらゆる形の印刷素材から選び出された。 これらの展示を見ながら、「ああ、これはチョロンで売っている包装紙の花柄で、こっちはエアメール用封筒の飛行機。だったら紙の箸置きの鳳凰はどこだろう」と心の中で確認した。凡庸な視覚言語に注意を払う人が少ないのは、どこか稚拙か非常にありきたりだからだろう。ところが細部に気を配って一処に集められると、その力強さとある種の魅力にハッとする。まさに同じものが世界トップクラスのクリエイティヴのプロたちに見られていることを、誇らしく感じずにはいられない。 良質なグラフィックデザインは常に調査から始まり、「ライス」にとっては歴史的文脈を指す。取締役のジョシュア・ブライデンバッハ（Joshua Breidenbach）とチー＝アン・デ・レオ（Chi-An De Leo）は絶えず「忘れられたタイポグラフィとシンボルを掘り出し、何か新しい解釈を与えようとして」おり、１９７５年以前のタイポグラフィが最も印象的だと話す。「技巧的で、功名で、装飾的。最も力強く、多様な影響を惜しみなく受けているんです」。彼らは、ぼろぼろになった古い空想漫画を見せてくれた。「これはチョロン近くの古本屋で見つけたのです」。 パッケージを集めるところから全てが始まり、その一部はD&AD向けの落ち着いたデザインのポスターに登場する。「ここには謎が、失われた何かがある。それをうまく表現するには詳細な調査が必要です」。これらの作品を生み出した名もなき芸術家、デザイナー、職人たちに思いを巡らせ、「失われた」のは彼らと彼らの物語であり、そこら辺にある物理的な生産物ではないことに気づく。ほかに「失われた」ものは、この独創的な作品がベトナムでは日常的にも組織的、歴史的にも何の価値もないということだ。 D＆ADで紹介された画像とタイポグラフィは、装飾パターンの概要を示す他の２つの作品と共に、ベトナムのデザインにとって初めての水準と規模で披露された。「ライス」は地元の秘匿性と世界の注目をつなぎ、文字通りのゴミに重要性を与えた。「それを実現できたのは幸運なことです」。

タイポグラフィ標本の詳細（Detail, Type specimen）©Rice Creative, 2014

Sue Hajdu　スー・ハイドゥー オーストラリア人文筆家、和英翻訳者、写真家。シドニー大学日本学の学士号、同大学院視覚芸術の修士号をもつ。 ベトナムと日本でアーティストとして15年ほど活動。 www.suehajdu.com Rice Creative www.rice-creative.com D&AD www.dandad.org