ヴィジュアル☆ベトナム/ しゃもじでない「しゃもじ」/NOT WHAT IS SEEMS: A TRIP THROUGH VIETNAM’S MATERIAL CULTURE

IMG_6351_NDT-1photos © Ngo Dinh Truc visual「クックガックパーティー」は、お腹も目も満たしてくれるレストランだ。奇抜な空間と視覚ディテールに溢れた内装が、大人気の理由の1つであることは疑うべくもない。   ベトナム文化を全く知らない新参者は、店内の至る所に文化的な意味が書き綴られているとは気づかないだろう。   ここでは、オブジェクトがそのままで使われているわけではない。しゃもじは、ベトナム版の変わったしゃもじに見えるかもしれない。だが実はそうではない。これは元来別のもので、ここではしゃもじとして置かれているのだ。ベトナム人には「別のもの」の正体が分かり、それを記憶と物語の文字として読み取れる。店のオーナー・チャン・ビン(Tran Binh)は、大半のベトナム人と同様、既存のオブジェクトを直感的に別の目的で使う。ビン氏は建築大学を卒業して以来、ベトナムの物質文化を探し続けてきた。「僕のコレクションを保管するために、この店と通りの向いの姉妹店をオープンさせたって言えるくらいだ」。   この事実に気づいた初心者にとって建物全体はパズルのように機能し、客は遊び始める。どのオブジェクトがそのままで、どれが改作なのかを考え、ベトナム生活での役割を推測するのだ。   入り口のドアに犬の首輪が飾られ、米国兵士の制服はかかしに変身している。では2つの店への門を飾る、点滅する渦巻き照明はどうだろう。10㎝の厚みがある木製テーブルの天板は?   どの席にも、アルミ製の箸入れが置いてある。以前、これはギゴズの粉ミルクで、どの家庭にもあったものだ。この上級品は金属製の蓋付きで、昔は弁当箱やパテのような食品の型として利用された。壁に固定されて、箸入れとなったのだ。   私のお気に入りは、端に金属製のフックがついた黒いゴム製の細長い紐が複雑に組み合わさったアーチ道だ。第一の人生はタイヤのチューブだった。第二の人生では、古いオートバイに荷物を固定するゴム紐だった。今は新しい人生を手にしたのだ。   ベトナムの物質文化は、頑丈な米軍の軍用品も主役にする。弾薬箱は、コメやカメラの防湿にぴったり。オートバイの修理屋は道具箱として重宝する。食器トレーはネジや小さい部品の整理に便利だ。では、VIPルームに飾られた米軍用スプーンは? 米軍の撤退後、どう使われたのかのヒントはその凹みにある。   ビン氏のお茶目な審美性と創造性は、戦後の余裕がない時代に育まれた。必需品がすぐに手に入らない状況で、貧困が脳内の神経を新たに刺激して創造性を増長させた。何でも置いてある100均とは全く逆だ。   店を訪れる楽しみのひとつは、これらのオブジェクトについて思案し、その正体に気づいた瞬間、脳内にきらめく小さなひらめきだ。では結局、「しゃもじ」はかつて何だったのだろうか? IMG_6325_NDT
Sue Hajdu スー・ハイドゥー オーストラリア人アーティスト、写真家、文筆家としてベトナムと日本で活動。シドニー大学日本学の学士号、同大学院視覚芸術の修士号をもつ。 ウエブサイト:www.suehajdu.com Facebook:Sue.Hajdu.Projects Cuc Gach Party 住所:9 Dang Tat St., Dist. 1 ウエブサイト:www.cucgachparty.com.vn
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