ヴィジュアル☆ベトナム/墨を入れたら、綿で隠して。/COVER ME IN INK, THEN COVER ME IN COTTON

for sketch2-LTattoo by Ben Tattoo ©Sue Hajdu visualベトナム人の体に特別に興味をもったことはなかった。不快だからではなく、フォルム的にも性的にも魅かれないため、服の下に隠されているものに食指は動かなかった。 だが、オートバイで通り過ぎる時、シャツの袖からちらりと見えるタトゥーは私の視線を確実にとらえる。昔ながらの厳格なベトナムをよく知る者にとって、この新しい視覚トレンドは興味深い。そこで2つのタトゥースタジオを訪れた。 「サイゴンインク」は、恐らく国内で最大規模のスタジオだ。店内はヒーリング音楽が流れる中、巨大な仏像の絵が見下ろしている。店長が「客層はビジネスマン、公務員、銀行員など」と教えてくれた時、女の子が支払いにやってきた。ジーパンにダサいヘルメット、日焼け帽子の長袖ジャケットと花柄のマスク姿。 「彼女がタトゥーを?」と、少し面食らう。ごく普通の、あか抜けない子どもなのだ。 ベトナム女性がとタトゥーに夢中になったのは、ここ2年ほどのことだそうだ。おまけにその大半が大きなタトゥーを入れている。母が娘を連れてきて、そろって背中一面にタトゥーを入れることもある。 「彼女たちは自信があり、否定的な反応を恐れないからこそ、自分の殻を破ったんだ」。この土曜の午前中に、出入りする客はすべて女性だ。服の下にあるものが気になり始める。 街の反対側に「ベンスタジオ」がある。日本的なイメージに囲まれた赤と黒の小さなスタジオで、やはり店主は日本スタイルがお気に入り。「日本の刺青は複雑。ディテールとレイヤーの多さが深みを与えていて、アーティストとして仕事が面白い。SHIGE(シゲ/Yellow blaze 黄炎刺青処)の作品が大好き」。 5年前から政府はタトゥースタジオを認可し、ベンスタジオのような店が増えてきた。かつてモチーフと言えば質の良くない青色で描かれた龍や虎、仏像が主流で、タトゥーは不良の証だと思われていたのに。 サイゴンインクで、写真を見せてもらった。「この女性はビジネスマンの妻。彼女も夫も体に墨を入れるのが大好きなんだ」。別の写真に写っているのは、40、50代のカフェ店主。「侍とか芸者、ヤクザ文化が好み。でも、日本で刺青を入れることの意味も分かってる」。 だが、ほとんどの客にとって鯉や牡丹に象徴的な意味はなく、単なるイメージ。「強烈な図柄は、大きければ大きいほど力強さが増すんだ」。 ベンスタジオでは、カンという痩せた子どもが、静かに座っていた。店主が、シャツを脱いで背中の半分を覆う作品を見せるよう頼んだ。彼は背中一面にタトゥーを入れるためにお金を貯めている。「家族は知っているの?」、「ううん。おばあちゃんが怒るから」。 カンのシャツの下は、全く予想外のボーナスだった。ベトナムインクの隠れた世界を見た今となっては、綿の服の下がどうなっているのか常に考えずにはいられない。

saigoninktattoo1Tattoo by Saigon Ink ©Saigon Ink

Sue Hajdu スー・ハイドゥー オーストラリア人文筆家、和英翻訳者、写真家。シドニー大学日本学の学士号、同大学院視覚芸術の修士号をもつ。 ベトナムと日本でアーティストとして15年ほど活動。 www.suehajdu.com Saigon Ink www.tattoovietnam.com Ben Tattoo Facebook: Lam Nguyen Ben Tattoo
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