つわものどもが夢の跡
ディエンビエンフーは今

　歴史に「もし」を問うことに意味はない。それでも多くの歴史家は「ディエンビエンフー（Dien Bien Phu）の戦い」について言及してきた。「もし、ディエンビエンフーでベトナムが負けていたなら、世界地図は変わっていたかもしれない」と。ディエンビエンフーは、現代史に燦然と輝く「被植民地軍が欧米列強軍に勝利した初めての戦いの地」なのだ。ベトナムの勝利はその後のアジアのみならず、アフリカ諸国にも多大な影響を及ぼすこととなる。

　第1次インドシナ戦争末期の1953年11月、フランスはラオス国境に近いベトナム北西部の盆地・ディエンビエンフーに、全長10�q、幅6�qにもおよぶ巨大な基地を建設した。ラオスからベトミン（Viet Minh/ベトナム独立同盟）軍への補給を絶つとともに敵をここにおびき出し、一気に殲滅する作戦であったといわれている。基地はいくつもの陣地からなり、各陣地にはフランスの女性の名前がつけられた。フランスがこのような航空機に頼るしかない山奥の盆地に基地を構えたのは、ひとえにベトミン軍を甘く見ていたためだ。ベトミン軍は攻撃に不可欠な大砲を持っていない、持っていたところでこの地域まで運べないし、周辺の山越しに着弾させることも無理、と考えていたのだ。だが実際のところ、ベトミン軍は中国から多くの高性能武器を得ており、これらを運び込むことにも成功する。さらに、第2次世界大戦で敗退した日本軍の影響を示唆する証言も近年になって出てきており、日本軍が残した兵器類をベトミン軍が手に入れていたのみならず、現地に残った日本兵の中に、ベトミン軍の訓練を指導した者がいたともいわれているのだ（注）。

　こうして、事態はフランスの思惑通りには進まなかった。同年末には最初の攻撃を受け、フランス軍は大きな損害を被る。翌1954年、3月12日にベアトリス（Beatrice）陣地がベトミン軍の手に落ちたのを皮切りに、25日にはラレーヌ（Lareine）陣地（アンヌマリー/Anne - Marie陣地の一部）が、そして他の陣地も次々と陥落。5月7日にはついに、イザベル（Isabelle）陣地以外のすべての陣地がベトミン軍の手に渡り、翌8日、ド・カストリー（De Castries）司令官が捕虜となり、戦いは終結した。ベトミン軍のこの勝利は、4月26日から始まっていたジュネーヴ会議の行方を大きく左右し、その後の世界の独立闘争にも大きな影響を与えることとなった。

　現在のディエンビエンフーは、田園に囲まれたのどかな地方都市。街は開発が進んだが、今でも街はずれには高床式の黒ターイ（Thai Den）族の人々の家が並び、市場には色鮮やかな衣装をまとった少数民族たちが集う。街自体はこぢんまりとしていて、主要な戦跡も歩いて回れる広さ。かつての激しい戦闘に思いをはせつつ、平和をかみしめる旅へとくりだそう。

（注）『私たちの中のアジアの戦争　仏領インドシナの「日本人」』吉沢南/著（朝日新聞社）1986

スケッチトラベルで行く！
戦跡巡りの旅 ディエンビエンフー1泊2日
戦跡巡りと少数民族に出会う旅 ディエンビエンフー 2泊3日

（2008年4月号 | 2008年4月14日 月曜日 11:15 JST更新）