チャン・ティ・ヴイ
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柔和な表情の元宮廷女官、チャン・ティ・ヴイさん。18歳で「母に病気がちの祖父の世話をするよう言われ」て王宮を離れたが、「もっと働きたかった」と未練もあったよう。 |
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元宮廷女官が語る、王宮暮らしの苦楽
「私も今年で80歳になったのよ。15歳で宮廷女官になったのは遠い昔のことね。きっかけ?母も宮廷女官だったから、15歳で王宮の延寿宮(Cung Dien Tho)に入ったの。そこはバオダイ帝のお母様、トゥークン(Tu Cung)さまのお住まいだった。
女官の間で序列はなし、ケンカもなし。私の場合、年輩の女官が多いところで最年少だったから、かわいがられて仕事も楽しかった。薄い黄色や緑のアオザイを着てねぇ。でもね、皇太后さまがどこへ行くにも何をするにも一緒について行ってお世話するんだから、それはもうたいへん。ま、毎月お給金が貰えるのがいちばんの楽しみだったかしらね。
仕事は、皇后さまの体をマッサージしたり、扇で扇いだり。ビンロウの葉を噛んで吐く唾を、小さな容器で受ける仕事もあったっけ。皇太后さま1人に3、4人がつくのだけど、マッサージの最中に居眠りして、隣の女官から指でお腹のあたりをつつかれて、それでハッと目が覚める、そんなこともあった。朝は皇太后さまより早く起きる、夜は皇太后さまがお休みなってからようやく眠る、そんな生活がずっと続くの。でも、皇太后さまと話すなんてとんでもないこと。女官には禁じられていたのよ。
そうそう、皇太后さまの体はとても美しくて、足の裏は本当に絹みたいな手触りでね。食事は種類が豊富だし、飾りがホントにすごくて。バオダイ帝?太ってらしたのよねえ。皇太后さまの誕生日の儀式があった時、長生殿でバオダイ帝をお見かけしたわ。帽子をかぶって、龍の刺繍が入った服をお召しになっててね。長いテーブルの前に官吏も勢揃いして『皇太后さま、おめでとうございます』と声を揃えて…。
昔の王宮は美しかったのよ、とてもとても。とにかくすべてが美しかった。今は王宮を外側から眺めるだけ。外周を歩いていて、延寿宮の辺りに来ると思い出すの。あそこで自分が働いていたんだなって」 |