レ・ホアン・カイン
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厳しい顔つきがいかにも「職人」のレ・ホアン・カインさんは、兄の影響で彫刻の道へ。現在は、奥さんと同じく彫刻職人の息子さんの3人暮らし。 |
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「龍なんか難しくない」
伝説のフエ彫刻職人かく語りき
「もうワシも85歳なんだが、まだまだ現役よ。だいぶ昔、バオダイ帝の時、王宮のなかで皇族の家を建てる仕事に加わったことがあるな。ワシは屋根の梁の部分に装飾を彫った。そう、この道具が『チャンタック(Chang Tach)』だが、『伝説の秘具』なんて大げさだな。これは細い仕上げに使うんだ。使いこなすのは骨が折れるぞ。若いモンは使えんよ。最近じゃ、『数をこなす』仕事が多すぎて彫刻刀ばかり使ってしまう。
修行?師匠の下で10年以上かかってようやく彫刻を覚える。師匠は怖いなんてもんじゃなかった。小さな失敗にも怒鳴られる。でも彫刻のどこかを間違って折ってしまってもね、おこわで貼り付けちまうのさ。師匠にはもちろん秘密でね。
彫刻の手順は、まず彫るものを紙に描く。それを木材に貼り、その上から彫る。昔はコピー機がなかったからひとつ仕上がったら拓本をとって、同じ図柄を木材に貼って彫る。この繰り返し。でも熟練職人なら図柄が頭にある。それでさっとスケッチできる。それにワシぐらいだと直接木に彫れるんだ。
彫るのがいちばん難しいのは木の図柄。木は何であるかがわかりにくい、だから彫るのが難しい。龍なんか難しくないさ。この世界、木が立派に彫れて一人前よ。でも今は数が彫れたら一人前、このあたりは変ったな。ワシが彫ったものは、フエやホイアンのホテルなんかにあるって聞いてる。
話は変わるけどね、ここミースエン(My Xuyen/フエ市内から約40km)村は昔から彫刻職人の集落っていうことで有名なんだ。ホーチミン市の12区やホックモン(Hoc Mon)県には彫刻職人が集まってるけど、たいていこの村出身でね、ワシの名前を言えばみんなわかるはずだ。元弟子や親戚がいる。全部で300人くらいかな。いやたくさんだよ、ハッハッハ」 |