宮廷料理
皇帝たちの食卓を飾った
美食の王宮へ
宮廷料理の特徴は、その見た目の美しさ。例えば、一般的な料理である揚げ春巻きも、ニンジンとパイナップルで作った鳳凰や、中身をくり抜いたパイナップルのランタンに美しく盛りつけられて、宮廷料理に変身する。
かつてグェン(Nguyen)朝の皇帝達は、美食を極めるため、各地から料理人をフエに呼び集め、腕を競わせた。その際、高級食材を使うこともさることながら、盛り付けにも芸術的な美しさを求めたことが伺える。
また美食家のミンマン(Minh Mang)帝は、50人の料理人に50品を出させ、さらに同じ料理を2度出すことは許さなかったとか。フエ料理の種類が多く独特なのは、こういった皇帝達の要求に応えて、料理人達が新しいメニューを創案したからだと言われている。
そんな宮廷料理だが、1945年のグェン朝終焉と共に、一時は歴史の表舞台から姿を消す。しかし国が安定を取り戻すにつれ、各地でその伝統的な料理を復興させようとする人たちが出てきた。ある宮廷料理人の末裔は、先祖から託され大事に保管していたかつてのレシピを研究し、またある者は、当時の様子を知る古老を探し当て再現に取り組む。こうして2度目の生命を吹き込まれたのが、現在の宮廷料理なのだ。伝統が、庶民の家庭の中で受け継がれて生き残ったという点は、世界無形遺産に登録されている宮廷音楽の状況と似ている。
本場フエで宮廷料理を食する醍醐味は、その美しい飾り付けに加え、王宮での雰囲気を再現したテーブルセッティングや、貸衣装などを備え、皇帝気分を満喫できるところにもあるだろう。
|