時を忘れ、水と共に巡る旅。
ごく普通の農家訪問。
他では決して味わえない本当の素朴さ。
早朝のチャーオン。荷を積んだ船は、夜が明けるずっと前に集まり作業を始める。気温が高くなる昼までにひと仕事終えるためだ。
2日目‐9:00‐@カントー
カントーの水上マーケットが近づいたところで、1艘のツアーボートがこちらに向かってきた。もうここには戻らないので荷物は全部持って出てくださいと、アンさんの指示が飛ぶ。家のように居心地のよかった船の旅もこれでおしまい。バサック号はこれから明日のツアーの準備をし、再びカイベーへ向かう。「目下の悩みはスタッフが足りなくて忙しすぎること」とブノワさんは苦笑い。
快適さは何人もの見えない努力に支えられている。最後まで休みなく乗客一人ひとりに細かく気を配るアンさんの責任も重大だ。だが、人をもてなすことが大好きと言う彼女は、実に楽しそうに仕事をこなす。アンさん以外のみんなとのお別れ。私は後ろ髪を引かれる思いで、ツアーボートに乗り込んだ。
それにしても快適な一時だった。一体なぜなのだろう。そういえばこの2日間、険しい顔をした人を見なかった気がする。乗客、スタッフ、岸辺の人々、船の上の子どもたち。どの人もみんな笑顔だった。熱帯の空気と広々とした空、そして何よりもメコンの大河が人をやさしい気持ちにさせるのか。アンさんとブノワさんがメコンを愛するわけが、私にも少し解ったような気がした。ぎすぎすした都会での生活に疲れたら、笑顔を取り戻しにまたあの「家」に帰ろう。
|