時を忘れ、水と共に巡る旅。
On the Mekong [オン・ザ・メコン]
水面を走るそよ風に合わせ、対岸では黄昏色に染まった木々の陰が揺れる。ここはベトナム一の大河、メコン。静寂の中、エンジンの音がだけが心地よく響くクルーズ船の眼前には、投げ網漁にいそしむ男達や、夕食の支度に追われる女達の日常が広がっている。
乾季に入りこれからがベストシーズンのメコン河では近年、クルーズが人気。岸から眺めるだけでなく、船に乗り、流れる水と共に旅をする。その雰囲気は、乗客もクルーもひとつの空間を共有し、まるで家族のように朗らかだ。そうした中、メコンデルタのすばらしさを伝えたい気持ちがこうじて、客船を造ってしまった人がいるという。その船はカイベー発、カントー行き。それは、いつもの長距離バスでの移動とは、また違ったメコンを見せてくれるのだろうか。インドシナの大地に悠々と横たわる「メコン河」を船でたどる、私はそんな旅に出たくなった。
文/中村里加子
写真/大池直人 |