時を忘れ、水と共に巡る旅。
迎えてくれたのは、
のどかな時間と屈託のない笑顔でした。
15分もあればバイクでひと回りできてしまうほど、カイベーは小さな町。野菜を積んだトラックがひっきりなしにやって来る船着場を仕切るのは男たちだ。バサック号内部は、素朴な外見とは打って変わって本格的なリゾート仕様。もてなしの気持ちはランチのテーブルセッティングにも表れる。おいしいものを共有すればすぐ仲よしに。
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スタッフのさりげない気遣いと笑顔に心がなごむ。(上)技術のチンさん(左)厨房スタッフのタイさん |
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左)技術のチンさん、(右)アンさんとブノワさん夫妻 |
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1日目‐11:00‐@カイベー
カイベーの町に着くとタイミングよく携帯が鳴った。「今日のツアーにご参加のお客様ですね…」と、女性の声。指示された場所に出向くと、一艘のピックアップボートが待っていた。後から他の乗客と一緒に乗り込んできたベトナム人の女性が「先ほどお電話したのは私です」と話しかけてきた。彼女がこのツアーのホステスであり、バサック号のオーナーであるアンさんだ。
さっきの電話は、連絡を密に取り、必要であれば、待ち合わせの場所を乗客の都合に合わせて変更する為だったらしい。全員がバサック号に乗船すると、船は早速出航。カイベーの市街部を抜けて支流を南下、チャーオンという町に向かって進みだした。
バサック号は客船というにはこじんまりした造り。以前訪れた、カントーの川で見たことのある漁船と同じ形をしているが、完成からまだ1年というだけあって、その船体は艶やかな褐色に輝いていた。3階建てのこの船は真ん中の階が客室とダイニングで、上はサンデッキ。
アンさんがデザインしたという客室は、茶と紺の色調でまとめられ、とてもシンプルだ。ドアを開けた瞬間に漂ってくる、ほのかな香り。「友人にオリジナルのフレグランスを作ってもらっているの。それを壁にスプレーしているのよ」と、何気なく彼女は答えるが、些細なことだからこそ、その心遣いが嬉しい。もちろん船上の部屋なので空間は十分とはいえないが、ここならリラックスして夜を過ごせそうだ。
ランチを済ませ、ボートトリップまでのひと時、ベトナムの地図を広げながらアンさんのご主人ブノワさんの話を聞く。「同じメコン川でも、カンボジアに入ると人がずっと少なくなって森ばかり。人の暮らしぶりを見たいならベトナム側の方がおすすめだよ」。彼らはカイベー〜カントー間の往復に最適なルートを見つけるべく、実際にメコンの水路をくまなく船で走り回ったそうだ。
「この後見学する果樹園は、カイベーからもカントーからも同じ時刻に到着する場所を探したんだ。だからこのツアーは他とは違う私たちのオリジナル。楽しみにしてて」と、ブノワさんは微笑んだ。
赤れんがを焼くドーム型の炉が連なるヴィンロンのあたりを過ぎると、岸辺にはまた無数の椰子の木が続く。川の中ほどを悠々と進むバサック号の両脇を、大小の船がせわしなく追い越して行く。ちょっと雲が多くなってきた。スコールに白く霞む風景はどんなだろうとぼんやり考えながら、川風が頬を撫でるしばしの時間を、デッキチェアでゆったりとまどろんだ。 |