時を忘れ、水と共に巡る旅。
ごく普通の農家訪問。
他では決して味わえない本当の素朴さ。
このツアーで訪れる農家のおばあちゃんは、もちろん英語が話せないので、アンさんが通訳となる。外国人に警戒心はないの? 「ぜんぜん。みんなが訪ねてくれるのは、いつでも嬉しいよ」。メコンの人々は羨ましいほど寛容だ。
1日目‐16:30‐@果樹園へ
行き交う船がいつの間にか見えなくなり、バサック号が減速しはじめた。「うん、予定通り」とブノワさんが腰を上げる。備え付けのボートに乗り換え、出かける時間がきたのだ。緑生い茂る細い水路はしんと静まり返っていて、時おりアヒルの群れが横切る以外に、私たちの行く手を阻むものはない。
訪ねた果樹園農家で私たちを笑顔で迎えてくれたのは、家主のおばあちゃんとその娘さん、そして2匹の猫。近所から遊びに来たという女の子たちも加わって賑やかだ。客間に上がり、たった今庭から取ってきたという甘味たっぷりのザボンとマンゴーをごちそうになる。「ここみたいにずっと昔に建てたままの家は、近ごろめっきり減りました」と娘さん。
しかし、客間の机も台所のかまども相当年季が入っているが、ちゃんと手入れされていてまだまだ現役だ。たいしたものは何もないけどと、おばあちゃんはしきりに照れるが、その目はとても穏やか。長い年月を共にしたこの住まいは、この上なく居心地がよいのだろう。
果樹園は家の裏へも続き、そのまた先には田んぼが広がっている。稲が実る時期には一面が黄金色の海になり、それはそれは美しい景色になるそうだ。果樹園を歩く道すがら、アンさんがレモンの木から葉を一枚ちぎり「ベトナムでは果実だけでなく、葉もスパイスとして使うのよ」と教えてくれた。手渡された葉から、爽やかな、それでいて力強い香りが立ち昇る。一家のみんなに別れを告げ、先回りして待っていた船へと再びボートで帰る。気が付けば、日もだいぶ落ちてきた。 |