第4章 新鮮なカーコムとバリアの塩が秘訣
「美味しいヌックマムを作るポイントは魚と塩だね。魚はカーコム(Ca Com)に限る。それも全長5センチくらいの大きさのものが、最上のヌックマムの材料になるんだ。ウチはもちろん、100%カーコムだけを使っているよ。」
1年中魚は取れるが、一番美味しいカーコムが取れるのは、9月から12月。フンタン社では、1年間に製造するヌックマムの50%は、この時期に獲れたての新鮮なカーコムを使って仕込むのだそうだ。
「塩はバリア─ブンタウ省で取れる天然塩に限る。近場ではメコンデルタのバクリウでも塩は取れるけれど、あそこのは品質が低くてダメなんだ。」
「塩はニャチャンとかファンティエットが有名ですが、そこのは使わないんですか。」
「あれはね、食用には良いかもしれないけど、塩味がきつすぎるんだよ。バリアの塩はその点、味がマイルドでね。ヌックマム作りには最適なんだ。」魚は新鮮さが命。フンタン社では自前の漁船を持っており、バリア産の塩を積んで漁に出る。そして、カーコムが獲れると、その場ですぐに塩漬けの処理をする。その時の魚と塩の比率は3:1。これを持ち帰り熟成用の木の樽に入れる。他の材料はもちろん、水すら入れない。かき混ぜたり、何かを足したりすることなく、ただひたすら待つ。そうすると1年後には、美味しいヌックマムができあがる。
第5章 これなら飲める!
「ほら、これが去年の9月に仕込んだ樽だよ。ちょうど1番絞りのヌックマム、ヌックマムニー(Nuoc Mam Nhi)が出来てきたところさ。飲んでみるかね。」
トイさんにそういわれて、木の樽の下部についた蛇口から出てきたヌックマムを容器に受け、一口舐めてみた。ヌックマムの特徴といわれる臭みは、ほとんどしない。口に含むと、上質のカツオだしを濃縮させたようなコクのある香りが、喉元から鼻腔にかけて、ふんわりと広がる。美味しい。
「そう、これです! これこそ、忘れられなかった、あの味です。」
出て来たヌックマムは、何も加工されることなく容器に入れて売られる。とは言っても、この樽から出たばかりのヌックマム、つまり本当のヌックマムニーは、その工場で働いている人しか味わえない特別の味。しかも、今は9月。つまりカーコムが1年で一番美味しい時期に仕込み、ちょうど出来上がってきたばかりの一番絞りのヌックマムなのだ。美味しくないわけがない。以前に本で読んだ「ショットグラスで飲む人もいる」という記述も、当時は「ヌックマムを飲むなんて」と驚いたが、この味なら理解できる。
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フーコック島への旅(SketchTravel) |