第1章
この小さな島に70もの会社が
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↑4代目社長のトイさん、フンタン社の工場の門、高利用にパッケージされた同社のヌックマム |
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出迎えてくれたのは、フンタン社の4代目社長だというトイ(Thoi)さん。1932年生まれ、72歳。170センチ近くあるだろうか、ベトナム人にしては大柄な体格と、常に怒っているかのような厳しい風貌に最初は恐れをなしてしまったが、話をしてみると意外に気さくな人で一安心。
「ウチの会社は1895年創業。フーコック島でも、一番古いヌックマム会社なんじゃないかな。私の曽祖父が会社を起こしたんだ。」以来、代々家業を継いで来た。トイさん自身も、物心ついたときには、既にヌックマム作りの仕事を手伝っていたそうだ。トイさんのお子さん達も、フンタン社で働いている。
「古いだけじゃない。Vietnam Fisheries International Exhibitionというコンテストで、6年連続金メダルを授賞していて、品質のほうも折り紙付だよ。」そういって授賞式の時の写真を見せてくれた。
「フーコック島には、全部でいくつくらい、ヌックマムの会社があるんですか。」
「とても小さい会社もあるけど、ざっと70社くらいだろうね。」
第2章
美味の条件は40度
全フーコック島で生産されるヌックマムの量は、年間1000万リットル。そのうち、フンタン社は約10%余にあたる120万リットルを生産している。ベトナムの総生産量は2億リットルだそうだ。「ウチでは、大きく分けて、含有されているN値が25、30、35、40の4種類のヌックマムを製造している。40が一番美味しいんだ。」
「このNというのは何なんですか。」
スーパーでこの数字を見せられたときから、持っていた疑問をぶつけてみた。「このNというのはニトロゲンの略で、ヌックマムの等級を示すのに使われる数字だ。」ニトロゲン=窒素成分にはちゃんと業界内で定義があり、アシッドアミン成分50%、アンモニア成分12%、その他の成分38%という構成比率でなければならない。それが1リットルの中に40グラム入っていると40Nと表示される。「アシッドアミン成分が旨みの元になる。それから、あのヌックマムの独特の匂いは、ここに含まれているアンモニア成分のせいなんだよ。」
フンタン社で製造しているヌックマムのうち、一番多いものは35度のもので全製品の50%を占める。調理用などに使われる25〜30度の低いものが40〜45%。最高級の40度は5〜10%しか取ることができない。「売られているヌックマムの中には、60度〜70度という高いN値のものもあるが、これは煮詰めるなど、人工的に手を加えてN値を上げたもの。風味や味は、自然醸造された40度のものにはかなわない。」トイさん、ヌックマムのことになると話が止まらなくなるらしい。
「講釈はこれくらいにして、工場に行くかね。」
そう言って話を切り上げた時には、既にお昼近くなっていた。奥さんの手料理をご馳走になる。サラダから炒め物まで、味付けはすべてヌックマム。ここでは調理をする際にも40度のヌックマムを使っているそうだ。ヌックマムづくしの料理を食べきれないほど味わった後、期待に胸を高鳴らせながら、フンタン社の車でユーンドンの町にある工場へ向かった。
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フーコック島への旅(SketchTravel) |