New 2026.06.01

子どもの日本語習得はどうしてる?

ベトナム暮らしの母語教育

ベトナム暮らしの母語教育
ベトナムで子育て中の家庭にとって、「子どもの日本語」の問題はついてまわる。通う幼稚園や学校にかかわらず、日本語の習得は、日本人としてのアイデンティティや価値観の土台を形づくる重要な要素となるためだ。そこで今回は、ベトナム駐在の日本人の子どもたちの母語(日本語)教育に焦点を当てた。

※記事の情報は2026年4月取材時点のものです
※現地情報により内容が異なる場合があります
目次

保護者のみなさんに聞きました! 
言葉に関する現状と課題

ベトナムで子どもと共に暮らす家庭では、日本語の習得をどのようにしているのだろうか? その現状を把握するため、日系幼稚園やインター校、塾、補習校などの協力のもとオンライン調査を実施した。まずはその結果を見てみよう。
※アンケート調査:2026年3月にオンラインにて2週間実施。回答数は43世帯

ベトナムで伸ばす、日本語という土台

教師が伝える、母語教育のヒント

アンケート結果で浮き彫りになった、母語教育への関心の高さ。そこで、ベトナムの一部教育機関における母語教育の考え方や、家庭・教育現場での実践例を、インター校や日本人補習校に勤める日本人教師への取材を通して探った。

HISハノイ

国際環境で、日本語が“生きる”場をつくる
IB日本語教師の現場から

インター校で学ぶ子どもたちは、英語力を伸ばしながら多文化環境で成長している。一方で、保護者からは日本語力への不安の声も多い。そこで、5~12年生向けIB日本語プログラムを導入するHISハノイで教鞭を執る沢田梓先生に話を聞いた。

沢田 梓 先生
Ms. Azusa Sawada
富山県出身。地元の中学校の英語教員を経て、中国の広州のインター校でIB日本語教師としてキャリアを開始。現在はIB(PYP・MYP・DP)の日本語言語と文学を教え、5年目を迎える。「生徒の興味関心を高めるため、いつかミステリーを授業に取り入れていきたい」と話す

国際環境だからこそ大切な
日本人としてのアイデンティティ

HISハノイのミニ菜園がある屋上オフィスで笑顔で迎えてくれた沢田梓先生は、国際環境における母語教育の重要性を語る。

「日本語の母語教育は日本人としてのアイデンティティを確立する役割があります。英語環境に入ってきた日本人にとって、日本語はホームのような存在であり、日本語で話すコミュニティは安心できる居場所になります。

また、母語での思考力が強い子どもほど、他の言語での思考力も高い傾向があります。理科などの学習にも良い影響があり、母語教育の理想は、母語を使って基盤となる思考力を発達させ続ける環境を整えることだと考えています」

みんなが悩む漢字の問題
復習&アウトプットが大切

また、沢田先生によると、海外で住む日本人の子どもが直面する課題の1つは「漢字を覚えてもすぐ忘れる」こと。理由は復習の機会が少ないためだ。

「エビングハウスの忘却曲線のように、学習後に復習を行わなければ記憶は定着しにくいです。漢字の学び方も重要であり、漢字を一つひとつ個別に覚える方法は忘れやすい一方で、意味や成り立ち、他の漢字とのつながりを意識して覚えると、定着しやすくなります。

HISハノイの9年生までのクラスでは、漢字の復習をゲーム形式や競争の形で行っています。例えば、最も多く漢字を書いた人の勝ち、“草かんむり”の漢字を多く挙げた人の勝ち、漢字しりとりなどを通じて、楽しみながら学び、知識のアウトプットを促しています」

自分の考えを言葉に
文章へのフィードバックも大切

生徒たちが日本や世界の名門大学への進学を目指す上で、質の高い論文を書くには、母語での思考力と、それを言葉として表現する力が非常に重要だ。そのため、日本語を書く力の育成にとくに力を入れている。

「HISハノイの授業の方針では、思考を可視化することを大切にしています。生徒には、まず自分の意見を言葉として書き出させ、それを客観的に捉えながら文章へと組み立てていく力を養います。学校では、意見の構成の仕方や文章の書き方を具体例とともに指導し、フィードバックも丁寧に行っています。また、それが批判的思考に基づいているかを客観的に見る視点を育てるとともに、生徒同士で評価し合う機会も設けています」

そう話しながら見せてくれたのは、12年生の生徒たちが書いた課題論文。丁寧なリサーチをもとに論理的に構成され、自身の意見がしっかりと表現されていた。

「ご家庭では、お子さまの意見に共感や関心を示し、交換日記や会話などを通じて互いの考えを共有してほしいです。日本語のニュースや本を話題にすることで社会への関心も育ちます。言葉の言い換えで語彙力を育てられるので、読書環境を整えることも重要です。日本語は将来の学びを支える基盤になります」

Information

Hanoi International School (HIS)

住所:48 Lieu Giai St., Giang Vo Ward, Hanoi
電話:(024) 3832 7379
メール: mainoffice@hisvietnam.com
Facebook:@hisvietnam
Instagram:@hisvietnam
ウェブサイト:www.hisvietnam.com

ホーチミン市日本人補習校

補習校は“きっかけ”、育てるのは家庭。
日本語「で」学ぶ環境作りを

海外のインター校や現地校に通う日本人の子どもが、帰国後も日本の教育にスムーズに適応できるよう、ホーチミン市日本人学校と同じ教科書とドリルを使って学ぶ「ホーチミン市日本人補習校」。その役割や家庭での関わりについて、中川志帆校長が話してくれた。

中川 志帆 校長
Ms. Shiho Nakagawa
石川県出身。体育の教員免許を持つ。タイやアメリカ、ベトナムで14年間にわたり3人の子どもを育てている。アメリカ・シカゴ補習校ではPTA役員を経て、中等部の教員を務めた。現在はホーチミン市日本人補習校の教員として通算3年目。2026年4月より現職

日本を意識できる場所で
日本語の基礎をつくる

「ベトナムでは街を歩いても、日本語の看板はほとんど見かけません。日本にいれば自然と耳に入る言葉や目にする文字が、ここでは圧倒的に少ないです。補習校は、日本人の先生や友達とともに、日本語ならではの考え方や表現、空気感を体験できる場所。日本語で過ごす時間を提供することが大きな役割だと感じています」と中川志帆校長は語る。

多くの保護者が挙げる「話せるのに書けない」という課題は、補習校の児童にも共通して見られるもので、「これは能力の問題ではなく、単に“訓練”が足りないだけ」と指摘する。さらに、書く力を伸ばすには、発達段階に応じた指導が重要という。

低学年では主語と述語を備えた短い文から始め、中学年では「はじめ・中・おわり」を意識した段落構成へ。高学年から中学生にかけては、序論・本論・結論の流れで、論理的に意見を書く力を養っていく。

家庭での日本語環境が
漢字習得への土台に

漢字学習は、「日常で自然に触れる機会が少ないため、定着は簡単ではありません。差が出るのは、やはり家庭での言語環境です」と強調する。親がどの言語で話しかけ、どの言語のメディアに触れ、家族で日本語を使って会話する時間を持てるか、そうした日々の積み重ねが土台になる。

「例えば、我が家の子どもたちは毎日4つの新しい漢字を覚えます。まず書き順と読みを確認し、それを使った短文を作ります。ロボットのように写すのではなく、形やはねを意識したり、漢字の意味も考えながら書くことが習得への近道です」

日本語に親しむために
家庭でできること

子どもが母語に興味を持つかどうかは、保護者の関わり方に大きく左右される。

「子どものやる気は、お母さんの笑顔から生まれます。英語は褒めるのに、日本語ができないと叱ってしまうと、日本語が嫌いになってしまいます。まずは机に向かったこと自体をしっかり褒めてあげてください。補習校は“きっかけ”であり、力を定着させるのは家庭での毎日の積み重ねです」

また母親としての自身の経験を、こう振り返る。

「娘が15歳のとき、『自分を日本人だと紹介することに違和感がある』と話したことがあり、ショックを受けました」

そのため家庭では、ルーツである石川県の方言も大切にしてきた。同じ言葉で家族や親戚と話せることが、「帰る場所がある」という安心感につながるからだ。「自分が何者なのか」を理解して生きていくことは、大きな心の支えになっていく。

「学習に完璧を求めすぎないでください」 最後に笑顔でそう話してくれた中川先生。子どもが安心して日本語に向き合えるよう、保護者もリラックスした姿勢で寄り添うことが大切なのだ。

Japanese Supplementary School in HCMC

住所:Sai Gon South, Block M9, Tan Phu St., Tan Phu Ward, HCMC
電話:093 430 1061
営業時間:(土曜)9:00~12:00
ウェブサイト: jss-hcmc.asia

日本人家庭の保護者に聞く

母語教育のリアルQ&A

ベトナムで子どもにどのように母語を育てているのか、日本人学校とインター校にそれぞれ子どもを通わせる2組の保護者に、Q&A形式で話を聞いた。異なる環境の中で見えてきた、母語教育の工夫とリアルに迫る。

001 日系幼稚園

本や遊びで寄り添う 日本語のある暮らし

なーさん 子どもは8歳(小学3年生)と4歳(年中)の2人。それぞれ、日本人学校と日系幼稚園に通っている。ベトナム在住歴は3年2ヶ月で、約1年後に日本への帰国を予定

Q1 家庭でお子さんと会話する際に、日本語を正しく使わせたり語彙力を伸ばしたりするために、意識していることはありますか。

上の子は本が好きなので、本から語彙や表現を覚えてくることがかなり多いです。本を読んでいる時に、「これってどういう意味?」と聞かれたときは、例文とセットで、意味が腑に落ちるように説明しています。

Q2 お子さんがひらがなやカタカナを学ぶために、家庭ではどのような工夫をしていますか。

ちょうどダイニングテーブルの目線の先など、目につくところにひらがな・カタカナ・漢字ポスターを貼っています。また、カルタやひらがなを使ったおもちゃなどに遊びの中で触れさせ、自然と文字に興味を持てるようにしていました。興味が出てきたら、一時帰国の際に日本で購入したワークなどで読み書きの練習をしています。

Q3 家庭で日本語の絵本などを読む際に、気をつけていることがあればまた、日本語の絵本などをどのように入手していますか。

下の子に絵本を読む際、ふだんなかなか教えにくいこと(「え」と読む「へ」や、「を」と「お」など)が出てきた場合、しっかりと違いがわかるように伝えています。また、日本の本は、引っ越しの際や毎回の一時帰国の際に買ってきています。

『こどものとも』など薄い本や、1冊で情報量が多い図鑑をメインに、合計で300冊以上あると思います。そのほか、電子書籍で読みたい本を読んだり、幼稚園や小学校から借りたりすることもあります。

Q4 家庭で子どもに日本語を教えるうえで、どのような点が難しいと感じますか?

海外で暮らしていますが、幼稚園、小学校が日系で家庭内言語も日本語なので、そこまで難しさは感じていません。

ただ、生活の中で自然と覚える言葉は、日本で暮らしているよりも少ない気がします。電車やスーパーのアナウンス、街の看板や貼り紙、お店のメニューなど、日本にありふれているものがこちらにはないので、意識して作るように心がけています。
どちらかというと、お正月や雛祭り、端午の節句など日本の行事への馴染みが少ないことのほうが少し心配です。

Q5 ほかの保護者の方へメッセージをお願いします。

海外生活では日常の中で自然と日本語に興味を持たせることが難しいですが、電子書籍やオンライン教材を利用したり、日本人コミュニティなどで情報交換したりなど、工夫しながらできることはたくさんあると思います。幼い頃から多言語や異文化に触れていることも、長い目で見て、母語との違いを認識するのにいい影響があるのではとも思います。

Tくん 「最近、ひらがなと音がつながってきて、読めるようになってきたよ。いろいろなひらがなを見つけて読むのがおもしろい!」

002 インター小学校

日本語の間違いはその場で正しつつ
見守りながら育てる学び

バミーさん 10歳の子どもがインター校に在学中。ベトナム在住歴は10年以上で、現時点では帰国の予定は未定

Q1 英語やベトナム語に触れる機会が多い中で、日本語とのバランスについてどのように考えていますか。
語彙力や表現力の面で、課題に感じていることはありますか。

家庭内では基本的に日本語なので、話す言語は日本語が多いですが、日本にいれば自然に身につく単語や読み方など、知らないことに気が付かないことがあります。
また、日本語と多言語を混ぜて話すこともありますね。とくに子どもの間で流行っている言葉などは、英語しか言い方がわからないので混ざっています。その都度、日本語での言い方を教え、日本語にあたるものがない場合は、英語のままにすることも多々あります。

自分の考えや感情、敬語を日本語で表現できるように、日本語の本やマンガ に触れる機会をできるだけ増やしています。また、親が言い直したり補足したりしながら、自然に学べるよう心がけています。

Q2 日本語の絵本などをどのように入手していますか。

基本的には、一時帰国の際に買って持ってくるか、ガレージセールなどで入手しています。最近は電子書籍を読めるようにしているので、マンガや本はそれで読むことが多いです。

Q3 帰国後の学習面や学校生活への適応について、不安に感じていることはありますか。日本の同年代の子どもたちとの関係づくりについて、どのようにお考えですか。

学力面については、不安を感じることもあります。日本とは学習内容が異なるためです。基本的には本人に任せていますが、子どもの様子は親が注意深く見守る必要があると感じています。

Q4 家庭で子どもに日本語を教えるうえで、難しい点はどこにありますか?

とくに漢字は、反復練習とアウトプットが重要だと考えていますが、なかなかその機会を増やすことが難しいですね。

Q5 ほかの保護者の方へメッセージをお願いします。

各家庭それぞれ日本語学習の苦労はあると思います。改めて、漢字がわかる私たちってすごいなと自画自賛しながら頑張りましょう!

レゴ太くん 「漢字は難しいけど、少しずつ覚えると楽しい時もあります」

塾のサポートで

帰国後の不安を安心へ

保護者向けのアンケートでは、「将来は日本へ帰国し、日本で教育を受ける予定」と答えた家庭が59%を占めた。子どもが日本の学校生活にスムーズに適応できるよう、塾などを取り入れる家庭も少なくない。ハノイとホーチミン市の学習塾校長に、母語教育における補習授業の重要性や、帰国前の学習準備について話を聞いた。

青葉セミナー

海外生活で不足しがちな日本語力を
個別指導でしっかり定着

久保 遊野
Mr. Kubo Yuya
横浜市にある学習塾でエリアマネージャーを務めた後、衆議院議員秘書を経て、ハノイで「青葉セミナーハノイ」を設立。「桜モンテッソーリ子どもの家」園長も務める
言語習得には、「見る」「聞く」といったインプットと、「話す」「行動する」というアウトプットが必要です。母国では生活の中で自然と身につきますが、海外では子どもが受ける日本語の情報量が少なくなります。それを補う方法として、速読と個別指導が有効です。

「語彙」は、日常的に使用するものと、あまり使用しないが、知らないと不便なものの2つに分けられます。後者は、海外では接する機会が少ないため定着しにくいですが、1つの言葉を覚えるときに、連想ゲームのように複数の言葉とセットにしていくことで定着し、長文読解もできるようになります。

また、中には自発的に活字に触れることが苦手、もしくは必要に迫られないと取り組めない子どもがいます。当塾では区切りを設けて速読を行い、短期間の集中を繰り返すため、このような子どもたちでも抵抗なく進められます。また、問題文を読む時間が短くなる分、思考する時間を多く確保できます。

日本の受験で合格するには理解の積み重ねが必要ですが、入試問題は、6・7割とれば合格できる学校がほとんどです。そのため、受験の学年では、時間配分とどの問題を解くかを意識させることが重要です。個人の性格をふまえ、個別に指導することが効果的です。

海外での生活は、日本国内に比べてできないことも多く、不安に感じることもあるでしょう。一方で、海外だからこそできることもあります。これをチャンスに、さまざまな経験を子どもにさせてあげてほしいと思います。

Information

Aoba Seminar

住所: 4F, 136 Hoang Quoc Viet St., Nghia Do Ward, Hanoi
電話:037 487 5617
メール: info@aosemihanoi.com
ウェブサイト:www.aosemihanoi.net

早稲田アカデミー

言語や異文化の壁を乗り越え
海外経験を未来の強みに

田原 真征
Mr. Tahara Masayuki
早稲田アカデミー日本校舎で8年間勤務後、国際部にて海外在住生への受験指導に従事。シンガポール校副校長として帰国生を指導。現在はホーチミン市クレセント校校長として活躍中
本校は生徒の約25%がインター生です。生徒たちは帰国後の受験や編入に備え、国数英を日本国内と同水準で学習しています。国際的な視野を広げつつ、日本の学力と学習習慣を維持できる点で、多くのご家庭から高く評価されています。

帰国生の強みは、言語や異文化の壁といった「国内では得難い困難」を乗り越えてきた経験と柔軟性です。受験を勝ち抜くために意識すべきは、日々の生活で多様な実体験を積み、自身の成長を振り返ること。個々で異なる成長の軌跡こそが、入試での唯一無二の武器になります。

帰国生入試における「英語・算数・国語」の学習バランスは入試科目数で決まります。英語のみなら英語に時間を使えますし、2科目なら算数5:国語4の比率が一般的です。3科目の場合は算数4:国語3:英語3の配分を目安にするケースが多いようですが、あくまでも平均値とお考えください。

帰国子女に目立つ弱点は、漢字が苦手、計算機に頼ってしまうこと。消しゴムを使わない癖がついているお子さまもいらっしゃいます。ベトナム在住時から、鉛筆を使い自力で計算する習慣をつけていくと、スムーズに日本文化になじめるのではと思います。

情報不足で不安というお声もいただきますが、今はオンラインで説明会などもあり、学校が身近な時代です。ベトナムでの経験は、お子さまの大きな強みになります。ベトナム生活を、親子ともに成長する好機として、大切になさってください。

Waseda Academy

【クレセント校】
住所: 2F, Beautiful Saigon, 2 Nguyen Khac Vien St., Tan My Ward, HCMC
電話:038 800 0901
【サイゴンパール校】
住所:92 Nguyen Huu Canh St. Thanh My Tay Ward, HCMC
電話:(028) 3535 6100
メール: hcmc@waseaca.com
ウェブサイト:waseaca-singapore.com/hcmc
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