2024.06.01

ベトナムの教育現場を見てみよう

小学校の授業参観

小学校の授業参観
ベトナムに暮らす日本人の子どもたちにとって、教育環境の選択肢は主に日系または国際系の学校の2つに分かれる。さらにインターナショナルスクールと一口に言っても、学校の教育方針や導入している教育課程は実にさまざまだ。そこで日本人の子どもたちが実際に通う日系・国際系の小学校を訪れ、授業の様子を見学。教科や教え方・学び方の違いを見て、学校選びの参考にしてみよう。

記事の情報は、2024年4月取材時点のもの
目次
Hanoi ハノイ

British International School (BIS) Hanoi
ブリティッシュインターナショナルスクール・ハノイ

6年生/リーディング

イギリス人の担任の先生やベトナム人のアシスタントの先生は、各テーブルを回りながら生徒の質問に答える

言葉の裏にある意味を深く理解

BISの6年生の英語の授業は、ウォーミングアップのゲームから始まった。「悪意」(Malicious)と「軽蔑」(Scornful)など類義語でペアを作った数を競い合い、続くクロスワードパズルでは単語の意味を学ぶ。

本題へのリーディングではイギリスの児童文学作家マロリー・ブラックマン(Malorie Blackman)の小説『どろぼう!/Thief!』を順番に音読。学校でトロフィーを盗んだと疑われた転校生リディア(Lydia)をめぐる話を読み進めながら、先生は文中の単語の意味や背景について質問する。

「『壁の上のハエになりたい』とはどういうことですか?」という問いかけに、「人の話を盗み聞きしたい、かな」と答える生徒に、先生は「エクセレント!」と褒める。自分たちの理解度を確かめるために熱心に手を挙げ、積極的に発言する児童たち。英語を母語としない生徒が多いが、だれもが堂々と自分の考えを述べる姿が印象的だった。

多国籍の生徒たちの相互理解を深めるため、国籍やレベルにかかわらずペアを組む

広くて開放的な空間の図書館

リーさん「授業の内容は全然難しくなかった。自分の意見が言えたから楽しい!」、ドゥックさん「読書が好き! 先生の説明はわかりやすくて面白かった」、チーさん「分からない英語の言葉を先生に聞くと、英語だけでなくジェスチャーでも説明してくれます(笑)」

アトキンソン(David Atkinson)先生
「私はいつも教室を明るく前向きな雰囲気にするよう心がけています。教師として一番嬉しいのは、生徒たちが学んだことについて深い質問をしてくれるときですね」

Hanoi International School (HIS)
ハノイインターナショナルスクール

3年生探求の単元(Unit of Inquiry)

課題について細かく説明する先生

笑顔で世界を探検 :素材の特性とその利用法を理解しよう

 HISの3年生は、日の光が穏やかに差し込む小さな教室で、素材の特性とその活用方法についての授業を受けた。最初は探求学習の「調査→設計→創造→振り返り」という流れを知り、さっそく「調査」にとりかかる。3〜4人でグループになり、「提供された素材を使って、1分以上、電卓をのせられる物を作る」課題に取り組んだ。

 各テーブルに置かれたのはウノ(UNO)、プラスチックのストロー、テープなど。素材の特性を書き出し、デザインを相談していくうちに教室のあちこちで議論が熱を帯びて賑やかだ。制限時間は30分。楽しそうに作業を進めながら、各グループが自分たちで考えた方法で電卓を支える作品を完成させていく。

 この授業のもう一つの目的は、「チームワークやコミュニケーションの習得」。教科書は使わず、先生や友達など周りの人々から学ぶことを奨励している。

「先生、見て見て! うまくいったよ!」と笑顔で呼ぶ児童たち

ハノイの中心にあり、キャンパスにはバスケットボールコートなどの施設もある

池本悠夏さん「バランスを保つのは本当に難しかった。最初は無理だと思ったけれど、みんなと話し合ったおかげで成功しました!」、藤見荘吾さん「先生は厳しそうにみえるけど、実際はとてもやさしいです!」、新井妙奈さん「ギリギリ時間までに解決策が見つけられて良かったです!」

ウォーターズ(Pushpa Waters)先生
「子どもたちとは常に個別の相談にのっています。授業では準備と計画、バランスが重要。理解度などに合わせつつ、知識を教えるだけでなく、楽しみながら学べるように工夫しています」

Horizon International Bilingual School Hanoi
ホライズンインターナショナルバイリンガルスクール・ハノイ

4年生算数

先生の「ペリメーターのレッスン動画を見ましょう!」の言葉に、「はい!」と元気に応じた

多彩な教材を使って、算数の魅力を体感!

ホライズンの4年生に算数を教えるのは、6年の教員経験をもつ南アフリカ人の先生だ。「習うより慣れろ」をスローガンに、ペリメーターの測り方の授業を行った。まず、先生がペリメーターとは何かを説明し、理解度を確認するために質問をすると、みんなが競って手を挙げて答えた。

 続いて流された動画では、分かりやすくイラスト付きのアニメーションが使われ、図形の外周を見つける方法をゲームのように楽しく説明。「図形のすべての辺を足せば、ペリメーターが求められます」といった解説がされていた。

 続いては、課題だ。「2つの異なる長方形と、1つの複合図形の面積と周辺の長さ求め、それが整数であることを確認しましょう」と先生。色紙とハサミが配られ、それを使って図形の辺の長さを測り、計算する。課題を提出すると、先生はそれを確認しながら一人ひとりに丁寧に指導を行っていた。

出された課題に集中して取り組む子どもたち

紙を使って子どもたちが作った立体図形の作品

ファンさん「算数の勉強は楽しくて、大好きです」、トゥー・アインさん「外国人の友達と一緒に勉強すると、外国の文化を知ることができて、とても面白いです」

ミッシェル(Nicole Michell)先生
「子どもたちの成長を見るのが一番嬉しいです。数学が嫌いで宿題をしなかった生徒が、今では積極的に手を挙げて発言するようになりました」

International School @ParkCity Hanoi (ISHP)
インターナショナルスクール@パークシティハノイ

1年生国際教育課程(IPC)

ISPHは『ハリー・ポッター』のようなハウス制度があり、子どもたちは自分の所属のハウスの色のシャツを着用。ハウスのポイントを獲得するために、積極的に手を挙げて発言する

遊んで学んで、世界を探そう!

ISPHの元気いっぱいの1年生たちは、若いイギリス人の先生と「海・島・本土」について学んだ。先生がグーグルアースでベトナムのホイアンなどの場所を指し、子どもたちに行ったことがあるかを尋ねると、「去年の夏休みにホイアンに行きました」、「ホイアンってどこ⁉」などの声が上がった。  
 
 先生は海、島、本土の違いを説明して、済州島やニュージーランドなどを次々に示し、知っている地名が出ると、子どもたちは興奮して声を上げた。

 次はタブレットで島や地名を探す課題に取り組んだ。10分が経過した後、先生はタブレットを終了させて、今度は大きな地図を使って海、島、本土に色を塗るグループワークが始まった。子どもたちは、先生に質問したり、出身国の異なるクラスメートたちとおしゃべりしたりと、とても楽しそうだ。学びと遊びのバランスをとりながら、子どもたちは必要な知識を身に着けていく。

先生はいつでも丁寧に生徒の質問に応じてくれる

学校はハノイ中心部から約8kmの場所にあり、野球場を含む広大な敷地にある

オーさん「授業はとても楽しかったです!」、ドンユンさん「学校はとても広くて、レゴとかおもちゃがたくさんあるので、学校に行くのが大好きです」

マクフェトリッジ(Georgina McFetridge)先生
「英語が母語の人と同じように、自信を持ってコミュニケーションできる環境を常に心がけています」
Ho Chi Minh City ホーチミン市

Japanese School in HCMC
ホーチミン市日本人学校

4年生算数

ホーチミン市の年間気温の変化を、
折れ線グラフで表そう

チャイムの後、「これから2時間目の算数の授業を始めます」という号令で始まったホーチミン市日本人学校4年生の算数の授業。この日のテーマは折れ線グラフだ。全員で教科書を見てグラフを描くポイントを確認したら、ホーチミン市の年間気温の表をもとにグラフを描いていく。先生は児童が取り組む様子を見て回っていく。

 先生からグラフから分かることを聞かれると、続々と手が上がった。「4月が一番暑い」「1~4月は右上がり」などの意見が上がると、みんなで「合っています」と応じる。「ホーチミン市の気温を一言で表すと?」との質問には、一斉に「暑い!!」と元気な声が教室に響き渡った。

 最後に教科書に従って神戸市のグラフを描き加え、2都市の気温の相違点を発表。先生が「こう描いていた人がいたけど、どうかな?」と投げかけると、「これは~だから違う」など理由と共に意見を言う様子も伺えた。

教室には生徒たちの自己紹介シートや絵日記が飾られている

清掃スタッフもいるが、教室の掃除は自分たちの雑巾を使って行う

生徒、先生同士をつなげるマスコットの「ましまろ」は、生徒会が名前を募集して決定

「今日の授業はグラフを上手に書くのが難しかった。休み時間は図書館で本を読むのが楽しい」、「クラスはいつも明るい雰囲気。今は友達と仲良くするのを頑張っている」、「今日はグラフに点を打つのが難しかった。休み時間に友達と鬼ごっこをするのが楽しい」

授業担当教諭
「これからの世界に育っていく児童には、自分の意見を言ったり相手の意見を受け入れる対話的活動が大切だと思っています」

Australian International School (AIS)
オーストラリアンインターナショナルスクール

3年生探求の単元(Unit of Inquiry)

先生の疑問や質問を受けながら、自分たちでうまくいく・失敗した理由を考える

重力ってなに? 
身の回りの現実から発見・考察

 AISの5年生たちは、「なぜ空は青いのか」といった「世界の仕組み」を学ぶ授業を受けていた。テーマは明かされず、①風船とばし②ボトルフリップ③箸でサイコロ積みの3つのゲームを実施。ペアを組み、動画でやり方やルールを確認したら、さっそく挑戦だ。あちこちから歓声や悲鳴が上がる中、先生は各テーブルを回りながら声をかけ、一緒に喜んだり驚いたり。

 ひと段落したら、感じたことや気づいたことを述べ合う。「うまくいった人との違いは?」という先生の質問に、「水の量が多い!」「勢いをつけたらやりやすい」など様々な声があがる。先生は決して発言を否定せず、「どうしてだと思う?」と質問を重ねていく。

「物理」や「算数」といった枠はなく、ゲーム感覚で実践しながら、感じたことを言語化する。最後の10分間は、タブレットの課題に1人で取り組み今日の学びを振り返る。

時間の計測はタブレットを使う

壁には算数の概念を理解するために取り組んだ、児童たちの作品がたくさん掲示されている

ハンさん「チャレンジが好き。母語のベトナム語の勉強が楽しいです」、スンジュさん「授業はエキサイティング!」、カイデンさん「体育のテニスやドッヂボールも楽しいです」、木村ゆずるさん「AISに入って2年。日本と違って授業がクリエイティブだしおもしろいです」

カプアーノ(Deirdre Capuano)先生
「子どもたちが自ら学ぶ、その手助けをするのが教師の役目だと思います。発見をして事実をしり、そこから考察と座学で知識を定着させるプロセスを大切にしています」

Montessori International School (MIS) of Vietnam
モンテッソーリインターナショナルスクール・オブ・ベトナム

1~6年生モンテッソーリ

年齢の枠にとらわれず
好きや得意を追求

1歳児から6年生まで一貫してモンテッソーリ教育を実践するMISの教室は、さまざまな教具が整然と並んだ空間。朝会が終わると、子どもたちはそれぞれの教具やノートを取り、思い思いの場所に座って「お仕事/Work」に取り組み始めた。

 小学校は10人ほどで、1~6年生までが一緒に1日を過ごす。大きなそろばんで計算の練習をする5年生の傍らで、2年生が英語の書き方を練習。本を読んでいる子もいれば、パズルのような教具で掛け算の概念を学ぶ子もいる。

 モンテッソーリ教育では、あくまで子どもが主体であり、教師も環境の一部という位置づけだ。教壇に立って教えることはなく、一人ひとりにやり方を提示することもあれば、見守るだけの場合もある。教室はとても静かで、子どもたちは各々のお仕事に夢中だ。時にはお互いを助け合うなど、、平和な雰囲気が漂っていた。

思い思いの場所で、自分の好きな「お仕事」に取り組む児童たち

自分の計画ややったことをジャーナルに書き、1日を振り返る

リンダンさん(11歳)「数学と言語が好き。将来に仕事に生かせるから」、千尋さん(9歳)「苦手だった算数が楽しくなりました。歴史では昔のエジプト人の暮らしにはまってます」、ソックさん(10歳)「化学や生物の実験が好きです」、クインティンさん(11歳)「興味があることを思う存分学べることが楽しいです」

マリー(Marie Gallardo)先生
「課題を自分で選ぶからこそ、自律心と責任感が身につくところがモンテッソーリ教育の強みです。インター校はお互いの国の文化を自然とシェアできるのが良いですね」

International School Ho Chi Minh City (ISHCMC)
インターナショナルスクールホーチミンシティ

2年生ステーション(Station)

身の回りの知識を深めるアクティビティ

 ISHCMCの2年生の「ステーション」の授業は、担任とアシスタントの先生の二人体制。クラスをグループ(ステーション)に分け、20分かけてテーマに沿ったアクティビティをローテーションで行う。この日は「読書」「ディスカッション」「ブロックで建物を組み立てよう」「世界の貨幣の観察」の4つだ。

「ディスカッション」では、「これってモノ? サービス?」というテーマで話し合いが行われていた。例えば「寿司レストランはモノ? サービス?」という問いに対し、「お寿司が食べられるからモノじゃない?」「でも静かな雰囲気と丁寧な接客を提供しているよ」「日本のお寿司屋さんでは、いらっしゃいませ! と言うよ」など、自分たちの経験も交えながら思い思いの意見を発言する。

 先生はそれらに応えるほか、グループ全員に向けて、その意見を再度共有。答えが定まっていないテーマに対し、考えを積極的に発言できる環境があった。

「世界の紙幣の観察」では、顕微鏡を使ってお札を観察。「キラキラしてるー!」「すごーい!」など驚きの声が続出

「ブロックで建物を組み立てる」活動は、測定や立体図形への認識を高めることが目的。ブロックを高く積み上げて盛り上がったり、助け合ったりしていた

タブレット端末を使用した読書では、活動で扱った紙幣について、さっそく本で理解を深める生徒も

Jさん「いろんなアクテビティができるから楽しい。いろんな国の言葉に触れられるワールドランゲージの授業が好き」、Eさん「水泳の授業が好きで、最近は苦手な算数を頑張っています」

ウォレス(Wallace Yip)先生
「このクラスは、とにかくエネルギッシュで元気いっぱい。自分の意見を言うことも大切ですが、他の人の意見に耳を傾けるアクティブリスニングや、協調性を身に着けられる授業を心がけています」

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