第243回 図面通りには進まない ベトナム人と一緒に正解を追いかける

第243回  図面通りには進まない ベトナム人と一緒に正解を追いかける

山田 貴仁 さん
建築家

人・モノ・場所を生かし
ベトナム人のための建築を
2014年、著名なベトナム人建築家ヴォー・チョン・ギア(Vo Trong Nghia)氏の建設事務所に新卒で就職。5年間経験を積んだ後、2019年に自身の建設設計事務所「アネッタイ/anettai」を設立した。南国の気候の中でしかできない、ベトナムならではの建築デザインを中心に手掛けている。

「クライアントの希望に合わせた仕事だけをするのではなく、自分が自分自身のクライアントとして、仕事を作っていきたいとの思いで立ち上げました。現在は、元同僚の日本人建築家、ベトナム人建築家とそれぞれ設計、3Dデザインのパートナーとしてチームを組み仕事をしています」
 長年培ってきた人脈や知識を駆使し、地に足を付けて場所や建材、人材を選定。特に、ドミトリータイプの個室が備わるユニークなカフェ「チドリ/Chidori」の事業にパートナー設計者として加わり、新店舗はオープンするや否や高い評価を得た。

「『家が狭く、プライベートな空間がないと嘆くベトナム人の若者カップルたちに寛げる時間を』という日本人オーナーが掲げたコンセプトに共感し、ベトナムに根付いた問題に対して少しでも力になれればという思いを込めて設計しました」

 ベトナムの日常で当たり前のように溢れている植物や木材などを生かして、地元の人々に刺さる建築を生み出しているのだ。

密なコミュニケーションで
ベトナムらしい建築が建ち上がる

 今年で在住7年目。ある程度のことにはもうあまり驚かなくなったと話す山田さんだが、ベトナムの建築業界では、日本のそれでは考えられないことが日常茶飯事に起こるという。

「事前にどれだけ準備しても、現場のベトナム人ワーカーの意見によって毎日状況が変わるので、1ヶ月後には思い描いていたものと全く違うものになっていることも。ですが、彼らが共有してくれるベトナム人ならではの発想や知恵を積極的に取り入れることで、建築が思わぬ発展に繋がることもあります。ベトナムらしい空間設計を目指している私にとっては、むしろメリットだと感じます」

 ただの発注者と請負者ではなく、一緒に1つのものを作り上げるパートナーとしてのフラットで密な関係性を築くことが、より良いものを生み出す材料となっている。

 彼らの持つ素晴らしい技術や知識を得る代わりに、正当な評価を得られていない設計・施工・3Dデザインのパートナーたちに、相応の仕事の機会を増やすことも1つの目標だと語る。
「成長スピードが凄まじいベトナムでは、何が起こるか分からないのは当たり前。その分、図面通りに進まないことや失敗も当たり前として受け入れられる精神的な強さが身に付きました。正解にこだわらず、恐れずにまずはやってみることがベトナムで生きるコツだと思います」

Information

山田 貴仁 やまだたかひと

建築家、3Dデザイナー。首都大学東京大学院終了後、2014年より「ヴォー・チョン・ギアアーキテクツ」に勤務。退社後、2019年に建設設計事務所「スタジオ・アネッタイ」を設立し、代表を務める。
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