ベトナムの日本人／山本真由／銭湯はノ湯・マネージャー

ベトナムで取り戻せた本当の自分 過去の経験を活かし、仕事も家庭も両立できるママを目指す

日本で挫折を繰り返すも 無駄にはならなかった全ての経験 文武両道を掲げる小中高一貫校に通っていた山本真由さんの周りには、スポーツ万能で成績も優秀な生徒が多かった。そんな環境での山本さんの立ち位置は「落ちこぼれ」。運動はまるっきり苦手で、勉強も得意ではなく、常に劣等感を感じていた。 「高校に進むと、“何か秀でるものを見つけなければ”という焦りに変わりました。中学は音楽バンドにはまり、高校ではダンス部に所属していたこともあり、何かを創造する世界に進もうと決めました」 芸術系の道へ進もうと思い立ち、猛勉強の末、美術系の大学に合格。デザインを専攻し一流のデザイナーになるべく意気込んでいたが、挫折は再び訪れた。 「周囲はセンスの良い人だらけで、授業もついていくのが精いっぱい。卒業はできましたがデザインの道は諦めましたね。卒業後は接客の力を磨こうとアパレル店に勤務。でも長くは続かず、結局フリーター生活となって路頭に迷ってしまいました」 人生のどん底を味わっていたある日、友人からベトナム旅行に誘われた。初めて訪れたベトナムの印象は「面白い！」。道も屋台もすべてが日本にない新鮮な光景で、人も優しく、つい「日本に帰りたくないな～」と呟いた。それを聞き「それなら今度ハノイでオープンするレストランで働いてみる？」と声をかけたのが、当時の友人で後に山本さんの夫となるミン（Minh）さんだった。 大きな変化をもたらしたハノイ生活 「銭湯はノ湯」も軌道に乗り4周年 「私にしかできないことがあるはず！」と一念発起し、2012年9月から勤務を開始。接客を担当し、後にメニューのデザインも始めると、周りからの評価が一気に高まった。 「完成したメニューを見て、当時は友人だった主人がものすごく褒めてくれて。自信にも繋がり、やっぱり私はデザインが好きだったんだと気づかされました」 そんなミンさんと付き合うようになり、2013年にめでたく結婚。2014年2月に「銭湯はノ湯」をオープンさせた。「お湯の設備を整えるのが難しそうだし、そもそも銭湯は流行らない」と山本さんは反対していたが、何事も挑戦してみたいという夫の姿勢に感化され、自身も共同運営者としてサポート。接客のほかロゴのデザインなどを担当し、ここでも過去の経験が生かされたことで仕事のやりがいを見出せた。 「はノ湯は2018年2月に無事4周年を迎えます。書類などベトナム語のやりとりは主人が行い、日本人対応は私が担当と、業務を完全に住み分けたことで大きなトラブルがなく、かつ日本流のサービスも維持できたのは大きかったと思います」 娘の出産後も限定的だが仕事に携わっており、公私ともに充実した生活を送っている。 「忘れていた楽しい生活を、思い出せてくれたのがここ、ベトナムでした！」 そう微笑む山本さんは、今後は働くママとして徐々に仕事量を取り戻していく予定だ。

山本真由　やまもとまゆ 東京都出身。大学卒業後はアパレル店に勤務。2012年9月に来越し、飲食店での接客を経て、ベトナム人の夫とともに「銭湯はノ湯」をオープン。現在は１児の母である傍ら、同店マネージャーとして運営管理を行うほか、フリーとしてデザインの仕事を請け負っている。