ベトナムの日本人/高山徹さん/ブラジリアン柔術師範

道着1つあれば、世界中どこへ行っても友達になれる。 ブラジリアン柔術の波がベトナムに広がることを願って

[caption id="attachment_82499" align="alignnone" width="570"]img_0377 ハノイ中心部の、とあるフィットネスルーム。入った瞬間、ムワッとした熱気と汗のにおいが襲ってくる。マットを敷いた床の上では、日本人、ベトナム人、欧米人など、体格も国籍も様々な男たちが、汗だくになって寝技の取っ組み合いをしていた。 ブラジリアン柔術は、日本では多少認知されているが、ベトナムではまだまだマイナーでハノイの道場は4箇所のみ。そのうち3箇所で指導をしているのが、ハノイで唯一の黒帯保持者である高山徹さんだ。 「つたない英語でなんとか教えています。実際に体を動かして見せることで大体は伝わるかな。ただ、ベトナム人のやっている道場で教える時は、ベトナム語しか話せない子が多いので、通訳してもらっていますね」。 本業で赴任してすぐに入った道場が閉鎖することになり、2014年に自らの暮らすサービスアパートメントの施設を利用してクラスを引き継いだ。週4回は自身の道場で教え、週末には他の道場にも教えに行く。狭い世界だからこそ、道場間の交流が盛んなのも特徴だ。 練習生のほとんどは初心者からのスタートで、人づてに聞いて入ってきた。 「最初に教えるのはディフェンスです。抑え込まれたらどう逃げるか。まずは、殴る、蹴る、目潰しなど以外なら何してもいいからと言い、経験者とスパーリングをやらせてみる。当然太刀打ちできません。実際にやられてみてから、どうやったら逃げられるかというのを教えるんです」。 柔術の極意は「柔よく剛を制す」だ。始めたばかりの頃は体格で勝る相手には敵わないが、テクニックを磨くことでコントロールできるようになる。いかに相手が攻撃できない体勢を作るかが勝敗を分けるからこその、ガチンコの取っ組み合いだ。 「普段は一対一の真剣勝負ってないですよね。それを本気でやりあうので力も入るし、緊張感もあり、汗もかく。非日常を体験できるのがおもしろさでもあります」。 SNSの普及によって海外の情報が入りやすく、ハノイでも若い世代を中心に、関心や意欲が高まってきているという。練習への参加率も高く、まじめに取り組んで着実に上達しているメンバーもいる。「ちょっと押したら転んでしまいそうだった練習生がガンガン攻めるようになって、メキメキ強くなっていくんです」と、喜びを語る。 ベトナム国内にはブラジリアン柔術の大会がなく、試合は他道場との練習試合のみ。タイ、香港、フィリピン、台湾では年に1~2回ほど大会が行われているが、ベトナム人にはビザなどの諸事情から参加が厳しいのが現実だ。試合経験を十分に積めないため、なかなか帯を昇格させてあげられないのがジレンマでもある。 「ハノイはタイやフィリピンに比べると、まだそんなに格闘技が盛んではないですが、これから富裕層が増えれば、スポーツに費やす時間やお金も増えていくんじゃないかな。今はその時のために興味を持ってもらい、入りやすい環境を作っていければと思って取り組んでいます」。 来年の任期終了までには何人かに帯をあげ、帰国後もベトナムにブラジリアン柔術の波を広げてほしいと願っている。
高山 徹 たかやまとおる 長野県出身。2003年に総合格闘技を見たことをきっかけに、道場の多い名古屋へ移りブラジリアン柔術を始める。就職後、2013年に黒帯を取得。2013年にベトナムに赴任し、2014年から現在の道場で指導している
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