ベトナムの日本人/生山葵さん/日本こままわし普及協会ベトナム支部代表

一緒に遊ぶのに国も文化も言葉も関係ない こまは最強のコミュニケーションツールです

japanese201505 毎週日曜の午前中、ハノイのリータイトー(Ly Thai To)公園では、揃いのTシャツを着たチーム「楽式」が、こまに興じながら技を披露し、道行く人にも遊び方を教えている。メンバーの9割がベトナム人というチームを率いるのは、生山葵さん。技に挑む時の真剣なまなざしと、子どもに接する時のやわらかい笑顔のギャップが印象的だ。 そんな彼がこまを始めたのは、実は来越してから。日本語教師として赴任先にハノイを選んだのも、勤務先の日本語学校の学園祭でこまに触れたのも、すべて偶然だった。一時帰国中、学園祭への協力のお礼に「日本こままわし普及協会」にあいさつに行った際、会長の「こまをもっと広めたい」という熱意と、自身の「こまをもっと極めたい」という思いとが重なり、ベトナムでの普及活動の旗手となった。 こまの何にそんなに惹かれたのか。 「伝統的でありながら、いまだにこまは発展途上玩具なんです。数千以上の技があるけん玉に比べて、こまは百ちょっと。新しい技を生み出して、自分で名前を付けられます」。 技が決まったときの爽快感もたまらないという。 「こまはネコみたいで、言うことを聞かせようとすると逆に聞いてくれない。幾度となく失敗しますが、こまの特徴が分かってくると、とたんになついてかわいくなる」と、どっぷりのめり込んでいる様子だ。 友人のベトナム人と2人で始めたチームは、1年半後には、常時10~20人が参加するまでに拡大。ほとんどが未経験者だったが、今ではメンバーがオリジナルの技を創造するまでに、チームのレベルも向上している。 「彼らの上達速度には驚かされます。例えば、ひもを腕に巻き付け、こまをひもに添って移動させる『ヘビ』という技があるのですが、私が習得に1ヶ月かかったものを、1週間後には見様見真似で完成させてしまいます」と模倣スキルに脱帽している。 うれしいのは通りすがりの人の反応だ。 「日本では、『ああ、こまだね』で終わってしまう。ところが、ベトナム人は食いつきがすごい。けん玉はハノイでチームもありますし、かなり知られていますが、日本のこまを見るのは初めてなようで」。  ベトナムにもかつて似たような玩具があり、こまをさすベトナム語「コンクアイ/Con Quay」もあるのだが、街中で見かけることはもはやない。珍しさもあって、挑戦したがる人たちが出てくると、掌に回転するこまを乗せることにしている。最初はおっかなびっくりでも、今まで感じたことのない感覚に夢中になってくれるという。 「普段は日本語教師をしていますが、遊びには言葉も国も関係ないと気づかされます。こまを通じて世界中の人ともっと遊びたいです」。 まずは知名度を上げるために各種イベントに参加するかたわら、ベトナム産の日本のこま製作にも、地元の木工師とタッグを組んで挑戦中だ。ハノイからベトナム各地へ、そして周辺国へと、彼のこま普及計画は着実な歩みを見せている。
生山葵 きやまあおい 1988年、愛知県生まれ。大学卒業後に日本語教師資格を取得し、2012年に来越。ハノイ市内の日本語学校に勤務するかたわら、チーム「楽式」を率いて、日本伝統玩具の普及活動を行う。日本こままわし普及協会ベトナム支部代表。日本こままわし普及協会認定技六段。
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