ヴィジュアル☆ベトナム/人々が集う場所/WHERE THE PEOPLE GATHER

DLMktStep_006-L4photo © Sue Hajdu
visualダラット市場はホアビンエリアから階段を50段下った場所にある。丸みのある建物、階段、背の低いホテルと商店が、中央の彫像と花壇で飾られた小さなロータリーを取り囲む。 夕暮れが近づくと、売り子たちが集まってくる。辺りはドライフラワー、風船、アクセサリーなどで溢れる。似顔絵描きは忙しそうに筆を動かし、狂った青い蛍のようなLEDのおもちゃが頭上に放たれる。広い階段を見上げると、湯気を立てる豆乳、焼いた餅やトウモロコシやサツマイモ、靴下やウールの帽子の屋台が温かさを約束している。背後の市場の端には、山積みのアーティチョーク、イチゴ、アボカドなどダラット定番の屋台が並び、その後ろには古着ジャケットを売る人たちが「3万5000ドン、3万5000ドンだよ!」と元気な声を張り上げている。 屋台の明かりと遠くから聞こえる「3万5000ドン!」のざわめきを楽しみつつ、がらくたの中に“掘り出し物”はないかと屋台から屋台へと何となく探し歩く。疲れたら花壇の周りに設置されたベンチの1つに腰掛ける。彫刻のような形の建物と高台に囲まれ、階段や大通りから次第に人々がここにやってくるのを眺めながら、この活気ある広場が心地よく感じられる。 何年も前に、ファンランで足止めにあったことを思い出した。夜に町中を通り抜ける国道を歩き、バス停に着いた。かすれた音でポップスをかける古いステレオ付き屋台に、人々は集まっていた。フェンスに囲まれたみすぼらしい場所だったが、のびのびとした気分になり、この空間の関係性が人々を惹き付けとどまらせ、閉塞感ではなく安心感を生み、人々に囲まれる喜びがあったことが、今なら分かる。 市場の階段で繰り広げられる光景を座って眺めていると、ローマのスペイン階段が思い出され、そういえばダラット市場の建築家の1人は、やはりローマで学び1955年にローマ賞第一等を受賞したゴー・ヴィエット・トゥー(Ngo Viet Thu)だった。彼は人々が社交や買い物、人間観察、うわさ話にいそしむ素晴らしい公共空間であるイタリア式広場を多く見たため、この場所の潜在力が分かったに違いない。ここに欠けているのは、熱々のカプチーノだけだ! 対照的に、サイゴンで最も活気のあるたまり場は、ベンタン市場ロータリーを終着点とする9月23日公園だ。空間はより大きく変化に富んでいるが、よく見ると、公園を抱えるように立つ建物が見える程度の大きさで、それが広場のような雰囲気を与えている。数多くのベンチが並び、武道、羽蹴り、社交ダンスの練習、年配者のおしゃべりなど、見るべき光景が常にある。 間違えないでほしいのは、これらは非常に庶民的な場所であり、気の弱い人向きではないこと。だが正真正銘の公共スペースとして、見知らぬ人との会話を始めたり、人が集まる光景を楽しんだり、単に人間観察をしたりするのに理想的なのだ。
Sue Hajdu スー・ハイドゥー オーストラリア人文筆家、和英翻訳者、写真家。シドニー大学日本学の学士号、同大学院視覚芸術の修士号をもつ。 ベトナムと日本でアーティストとして15年ほど活動。 ウエブサイト:www.suehajdu.com
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