ヴィジュアル☆ベトナム/まるで故郷のように/ALMOST JUST LIKE HOME

visual_201507Photo ©Sue Hajdu

visualここしばらくメルボルンに滞在しているため、少しベトナムが恋しくなった私は、ベトナム人街を訪れた。うろうろしながら、ベトナム人移民はこういった郊外の商店街を見てどれほど故郷の生活を思い出すのだろうと考えた。 市街地からわずか5kmの街フッツクレイには、20世紀に入る頃から発展した小さな商店街がある。通りは狭く、建物はベトナムの商店と似た大きさと形だ。こうは言いたくないが、みすぼらしくオンボロな様と相まって、この街がまるで“故郷のベトナム”のようだ。 おもな魅力の1つはマーケット。ヨーロッパ流の店舗デザインと、太字のベトナム語で書かれた魚屋や肉屋の看板が対照的だ。通りでは感傷的な懐メロが流れ、DVDの派手なパッケージや歌謡コンサートのポスターが入り乱れている。台所用品に至っては期待以上だ。あらゆる種類のステンレス製品、バインクオンの蒸し器、プラスチックのザルの山、なんと「ハッピークック/Happy Cook」ブランドまである。スターフルーツ、バナナの花、塩漬け卵、甘いおこわ、かまどの神様の祭壇…。これら全てが、気取らず少し乱雑な本場ベトナムの雰囲気の中にある。 地元住民が自宅用に栽培しすぎた野菜を販売する一角で買い物をした。この臨時マーケットには、自宅でベトナム料理を作るのに必要なハーブが何でも揃っている。秋の冷たい空気の中、売り手は暖かいウールの服にくるまっており、まるでダラットの町角にいるようだ。彼らの故郷や私のベトナム生活についておしゃべりをしていたその背後には、現政権の移民に対する厳しい姿勢に異議を唱えるポスターが貼られていたのが何とも皮肉だ。 フッツクレイはオーストラリアの最新の移民事情を反映してきた土地であり、移民人口が圧倒的にイタリア系からベトナム系に変わったのは80年代後半になってからだ。今ではアフリカ人街もできている。道路を渡っただけで、全体の見た目と空気が変わる。このエリアは思っていた以上にベトナム風だった。 メルボルンには他に3つのベトナム人街がある。朝の時間を道路脇のカフェでコーヒーとともに過ごしたい男性は、サンシャインまで足を伸ばせば数多くの選択肢がある。一方、中心業務地区(CBD)東側のノースリッチモンドは、毎年お洒落になっている飲食街で、ベンタン市場を模したやや不細工な建物がある。夜には、料理とナイトライフを求めて街中から人が集まってくるため、ベトナムらしさは失われる。さらに東に行ったスプリングヴェールは1960年代に開発された郊外で、ベトナム人街としては異質なことに道路の幅が広い。鴨のローストやベーカリー、歯医者、旅行代理店、会計事務所、マキシムズ・サイゴンまで、ベトナムの名前を掲げたおなじみの店が並ぶ一方で、典型的なオーストラリアの店も多く、フッツクレイよりも人種が入り交じっている。「サイゴン自動車部品」の看板を見て、笑わずにはいられなかった。バイク社会のベトナムと車社会のオーストラリアの、なんとも変わった文化の組み合わせを象徴していたから。
Sue Hajdu スー・ハイドゥー オーストラリア人文筆家、和英翻訳者、写真家。シドニー大学日本学の学士号、同大学院視覚芸術の修士号をもつ。 ベトナムと日本でアーティストとして15年ほど活動。 ウェブサイト:http://www.suehajdu.com
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