伊藤忍のベトナムめし大全/第64回 華僑風生春巻き/Bò Bía

BoBia_0003生春巻きはライスペーパーから海老が透けて見えるが、ボービアは腸詰め「ラップス―ン/Lap Xuong」が見えるのが特徴 本日ご紹介する「ボービア/Bo Bia」はベトナム南部ではとてもポピュラーなおやつです。下校途中の学生が立ち寄るような軽食屋や甘味の「チェー/Che」を売る店や、手押し車の屋台で売り歩かれている、気軽に食べられるストリートフード的な存在です。   見かけは日本でもお馴染みの生春巻きと同じく、ライスペーパーで具材が巻かれた筒状のもの。ボービアの具材には中国風の腸詰めの薄切り、千切りにして蒸したくずいもの「クーサン/Cu San(北部ではCu Dau)」やニンジン、干し小エビ、細く切った薄焼き卵など。これらを生春巻きと同じライスペーパで巻いて作ります。甜麺醤(テンメンジャン)のような甘く小麦から作った味噌味、チリソースやクラッシュしたピーナッツなどを混ぜたタレに付けて食べるのです。   この料理、もともとは中国にある小麦粉などで作る皮「薄餅」を使った料理を華僑達がアジア各国に伝えました。台湾、シンガポール、マレーシア、タイなどでは「薄餅」、「ポピア/ポーピア/ポピアー/Po Pia/Po Piah」と言う名前で親しまれています。これらの国ではこの名前は皮のことなので、この皮で作った春巻き全般を指します。ベトナムのボービアのような生で食べるものもあれば、揚げ春巻きもあります。   中でも中国の福建省では、その気候から小麦でなく米で作った皮を使います。アジアの国々には福建省出身の華僑が多く、米から作るこの皮を鉄板で焼きながら、いろいろな具材を包み、揚げないタイプのベトナムのボービアのモデルとなったものが屋台フードとして広まりました。   ベトナムへこの料理を広めたのは福建省の中でも潮州の移民たち。潮州の方言ではこの皮のことを「ボービ―アー」と発音するそうで、この音にベトナム語のアルファベットを当てて「ボービア/Bo Bia」という名前になったようです。   私が面白いと思ったのは、ベトナムではこの皮がライスペーパーとなって定着したこと。小麦粉や緑豆の粉を入れて作るライスペーパーも時々見かけますが、やはり主流はベトナムのライスペーパー版。ボービア以外にもベトナムに伝わった華僑フードは色々ありますが、このボービアと同じく他のアジアの国のものとはスタイルが変わるものが多いのです。    さらには華僑料理という分類とは少し違い、すでにベトナム料理化してしまっているものも少なくありません。このスタイルのアレンジがベトナム料理として定着したポイントなのかもしれませんね。 DSC_0524写真はマレーシアのプラナカン(華僑と現地人の混血で独自の文化を持つ人々)風のポピア。小麦の皮を使う 写真提供:古川音
伊藤忍 いとう しのぶ ベトナム料理研究家。2004年より日本にてベトナム料理教室『an com』を主宰。ベトナム料理店を広めるために料理教室のほか、テレビ、ラジオ、雑誌、書籍などで幅広く活躍中。 ウエブサイト:www.vietnamfoodnet.com
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