男のローカルひとり飯／第29回アットホーム

隠れ家レストランという言葉がある。大体、意外性のある場所に店がある場合を指すが、本稿で紹介する店はそのような概念とは完全に別次元を行く。　ローカルクオリティのアパートの階段を上がっていくと、たくさんの脱ぎ捨てられた靴を発見。そこで靴を脱いで進むと、居間に続く廊下のそこここに料理が十数種類ほど置いてあるのでそれを数品選び、おばちゃんに伝える。　ダイニングエリアは、テレビや水槽のあるリビングそのまま。奥は、日々使われている感満載のベッドやらタンスが並ぶ正真正銘の寝室で、店のおばちゃんの寝巻き姿すら想像してしまいかねない。　日本でもマンションの一室で秘密裏に営業する店などはあるが、ベッドルームで料理を提供するのはこの店くらいのものだろう。よく考えたら自宅でもベッドルームで昼ごはんを食べたことなどないので、ある意味人生初体験だ。　なんにせよ、デフォルトで並べられたのは、洗面器様のものに山ほど盛られたご飯、漬物がたっぷり入ったスープ、辛味の効いた腐乳のタレで味わうキャベツ、青菜、オクラ、キュウリなどの茹で野菜。そして、本日選択した豚肉と卵とタケノコの煮物と、肉豆腐のトマト煮だ。いずれもしっかりした味付けで、理屈抜きに料理上手のお母さんの家ごはんだ。野菜もたくさんあり、健康にも良いと思われる。　比較的高い価格帯であるにもかかわらず毎日満席なのは、やはりベトナム人は家庭の味が大好きということなのだろう。それにしても、この場所でのランチがベトナム人にとってどこまで普通でないことなのか、非常に気になるところだ。