男のローカルひとり飯／第28回ある日の春雨

アヒル肉の春雨が頂ける店を発見。店というより完全に自宅の居間といった佇まいの店内だ。店の奥には店主のお父さんと思われる爺さんが、何もせず客の横でぼーっと放心状態で座っていて、さすがはベトナム。　ホーチミン市で供される春雨の汁麺は、基本的にあっさりした鶏肉と鶏スープで、やや食べ飽きることもあるのだが、こちらは色々な味や食感の変化があり、少々趣きが異なる。　まずは、スープを味わうと、若干の甘さを感じ、柔らかいコクがまるく広がっていく。そこに揚げタマネギからくる旨味が加わり、小ネギとタデのみじん切りとコショウ由来のアクセントを時折感じる。　平打ち気味の春雨は、歯ごたえも比較的感じられ、これが半生のタマネギ、細切りのメンマと一緒になり、様々な食感が同居している。別添えの生のモヤシ、キャベツ、空芯菜の茎を入れるとシャキシャキザクザク感が加わり、食感の幅がさらに拡大。　そして、具材の弾力のあるアヒル肉や、豚の血を固めたものは、無論そのまま食べても良いが、甘酸っぱくかつ生姜をしっかり効かせた別添えのヌックマム（Nuoc Mam）につけて頂くと、口内の味覚の方向性は一気に変化する。　ただ、その後スープに戻ると、ヌックマムの鋭角な甘味と酸味と生姜の鮮烈さは、後で加えたキンゾイやミントの華やかさと共に、丸くスープに包み込まれて消えてしまい、すべては振り出しに戻る。　何気なく入った店で、朝からこのようなヌックマム味の具材とスープのハーモニーを味わえるとは。これだからローカルフード探索はやめられない。