ヴィジュアル☆ベトナム/THE SHARPSHOOTER/狙撃手

DSC_0086-Edit ヴィジュアル☆ベトナム雑誌の表紙に衝撃を受けることはあまりない。だが、従軍画家レ・ラム(1931年フックイエン(Phuc Yen)省生まれ)のこの驚くべき水彩画は、何ヶ月にもわたって私を虜にした。 雑誌「文芸解放/Van Nghe Giai Phong」は、南ベトナム解放民族戦線が地下で発行した無料雑誌だ。ホンダ67で通りを走り抜ける、畏怖の念を抱かせるカップル。男が運転し、後部座席の同乗者はライフルを構える。彼女が狙うのは、遠くにいるアメリカ人GIだ。この表紙は、1968年当時は驚きではなかった。戦争のドンパチの真っただ中、サイゴンを道行くGIたちは、襲撃、爆弾、絶え間ない危険と隣合わせだったのだ。 原画は画家自身が所有するが、複製をザ・ドグマ(The DOGMA)ギャラリーで閲覧・購入できる。キュレーターのリチャード・ディ・サン・マラザノ(Richard di San Marazano)によると、この2人の暗殺者はサイゴンで活動する解放戦線の一員で、当時から有名だった。 解放戦線に女性戦士がいたことは知っていたが、性別の問題だけでなく、暗殺者がとにかく色っぽいことが私を魅了した。レ・ラムの作品は、他の従軍画家と同様に、複数の概念―勇気、劇的、正義―を明確に表しているものの、色気はない。だがこの表紙画では、色っぽい体つきの若い女が速いマシンに乗っている。彼女の相棒はロカビリーファッションに身を包み、腕は逞しい。小さなバイクに乗って彼らはひそかに街を走り、狙撃手が目標を狙って打つ。彼女は武器の扱いを熟知している。熟練、正確さ、専門技能は実に色っぽい。 レ・ラムの全作品でこのイメージと重なる絵画はない。もしこの表紙が一点物だとすれば、何がきっかけでこの手法を選んだのか。レ・ラムは1958年にソ連でのプロパガンダアート技術訓練に初めて選ばれたベトナム人画家だ。だが、この手のイメージに出会ったのがその時だとは考えづらい。おそらく、米国から輸入された何かこれに近いものを彼がサイゴンで目にしたのだろう。あるいは、1950年代に日本や香港で始まり、1960年代後半にはサイゴンにも出回っていた「銃を持った女の子」のたぐいの映画から拝借したのかもしれない。 レ・ラムはバイクに乗った2人のイメージをもう1つ描いたが、審美的にも内容的にも、表紙の作品ほど力強くも大胆でもない。表紙では、GIが倒れる瞬間が描かれている。解放戦線の戦士や支援者にとって、この類の殺人はあくまで事実であり、感情的なものではない。だが、レ・ラムの芸術的な成熟ぶりと倫理的な誠実さのおかげで、描かれている敵の死は不当なものとはなっていない。 さらに私を愕然とさせたのは、ベトナムに20年も暮らしているのに、暗殺者が存在した事実を全く知らなかったことだ。暮らしている場所の歴史について、私たち外国人がいかに僅かしか知らないことか。さらに言えば、ベトナムの過去の視覚芸術の大半は、私たちの目に触れないままとなっているのだ。 sniper couple-image 2
Sue Hajdu スー・ハイドゥー オーストラリア人アーティスト、写真家、文筆家としてベトナムと日本で活動。シドニー大学日本学の学士号、同大学院視覚芸術の修士号をもつ。 Website:http://www.suehajdu.com facebook:Sue.Hajdu.Projects Le Lam  レ・ラム Website:http://www.dogmacollection.com/artists/le-lam.html
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