伊藤忍のベトナムめし大全/第39回 蟹のタマリンド炒め/Cua Rang Me

蟹のタマリンド炒め/Cua Rang Me 伊藤忍のベトナムめし大全「新鮮な魚介類を味わうには、シンプルな調理法で食べるのが一番」というのは万国共通のこと。素材自体がおいしいので、あれこれ複雑な加工をせず、ただシンプルに調理して食べるのを好むのでしょう。 勿論それはベトナムでも同じで、町のシーフード料理店などでも、ただ「焼く、ゆでる、蒸す」などの調理法で食べさせてくれるのがほとんど。海老、蟹、貝などを前述の方法で調理した後、塩とこしょうを混ぜてレモンを絞ったタレ「ムイティウチャイン/Muoi Tieu Chanh」を付けて食べる、というパターンが多いのです。 ただ、この食べ方も美味しいのですが、ある程度お腹が満足してくると、どの素材も同じ味付けでどうも飽きてきてしまう。贅沢なことではあるのですが、何か油気、コク、味のメリハリ等が欲しくなってくるというのは私だけではないはずです。そんな時に、私が決まって注文する料理が「クアランメー/Cua Rang Me」(Cua=淡水の蟹、Rang=炒りつける ※ランは南部読み、Me=タマリンド)です。 このクアランメーは、ホーチミン市など南部のシーフード料理店の定番メニューで、淡水で獲れる肉厚のマングローブ蟹(クア/Cua)を使った料理です。殻ごとぶつ切りにした蟹を油で揚げて火を通し、タマリンドを使った甘酸っぱいソースでからめて作ります。 タマリンドは豆科の植物で、高木にさや状の果実が生ります。これが熟れると、薄茶色い皮の中から柔らかくて酸味のある深い茶色の果肉が取れます。元来、杏や梅の実のようなとてもフルーティーな風味ですが、ベトナムのタマリンドはとても酸っぱく、そのまま食べると耳の根元あたりにじわっと刺激が走るような酸味の強さ。そこで砂糖を加えてしっかり甘味を付け、さらには塩気も加えて、甘酸っぱい爽やかな味のソースを作ります。 たいていは、大きなくし切りの玉ねぎをたっぷり入れるのですが、食感が残る程度に加熱した玉ねぎがアクセントとなって、さらに味わいを深めます。濃いソースで蟹の味が消えてしまうのでは、と思いますが、意外にも蟹肉の甘さ、旨味をより感じることでしょう。 ソースをからめた殻付きの蟹は食べにくい上、手がベトベトになってしまいます。そのため以前、高級料理店で殻をむいた蟹で作ったものを食べてみたのですが、何とも満足感が得られませんでした。この料理は上品にではなく、手を汚し、手についたのソースも舐めながら食べるのが、美味しさのひとつの要素なのかもしれません。 ※蟹にしゃぶりついてソースを味わってから、殻をむき皿に残ったソースを蟹肉にからめつつ味わおう。シャキシャキの玉ねぎをつまみながら食べると更においしい

タマリンドの果肉

タマリンドの果肉。ねっとりした果肉を湯や水に浸してふやかし、濾して種や薄皮などを取り除いてペースト状にしてからソースを作る
伊藤忍(ベトナム料理研究家) 2000年より約 4 年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2011年7月に新作『ベトナム×ハノイ36通りグルメ』(情報センター出版局)を出版。詳しくはホームページ(www.vietnamfoodnet.com)を。
関連記事
Related Articles
29屋的 越南食卓 /第56回
2021.11.13

29屋的 越南食卓 /第56回

29屋的 越南食卓 /第50回
2021.05.13

29屋的 越南食卓 /第50回

マダムキョーコの健康食材で美しく/(5)おやつでアンチエイジング!オレンジ色のパウンドケーキ
2019.12.01

マダムキョーコの健康食材で美しく/(5)おやつでアンチエイジング!オレンジ色のパウンドケーキ

たべもの文学抄/バナナ/Chuối
2018.10.17

たべもの文学抄/バナナ/Chuối

すぐウマby ちぇり7品目/ライスペーパーで手巻きサラダ
2016.11.23

すぐウマby ちぇり7品目/ライスペーパーで手巻きサラダ