伊藤忍のベトナムめし大全/第38回 丸蒸し餅/Bánh Bèo

丸蒸し餅 / Bánh Bèo 伊藤忍のベトナムめし大全小さな丸い器で蒸された、ひと口大の餅。上には赤い海老のでんぶ、鮮やかなグリーンのねぎ油、カリカリに揚がったきつね色の豚の皮が彩りよくトッピングされている。これは「バインベオ/Banh Beo」とよばれる米の蒸し餅。ガイドブックや雑誌などで古都フエ(Hue)の料理といえば、必ずといえるほど写真付きで紹介されているので、見たことがある方も多いのではないでしょうか。 もちろんご当地フエのほか、ホーチミン市やハノイなどのフエ料理レストランなどで食べたことがある方も、たくさんいらっしゃると思います。しかし、フエ料理としてあまりに有名なので、フエだけにある料理だと思っている方も多いようですが、実はベトナム全土で食べられています。 「バインベオ」の名前の由来ですが、「Banh」は、主に粉などに液体を加えて作った生地を形作って加工して作るものの総称で、「Beo」は葉が丸い水草のこと。丸い形をしたお餅なので、このような名前でよばれています。もともとは竹筒の底をバナナの葉で塞ぎ、そこに水で溶いた米粉の生地を流しこみ、蒸して作っていたそうです。蒸した生地を竹筒から外すと、丸くて薄い形の餅になるわけです。しかし、最近では食器や専用の型などを使って作るところが多いようです。 さて、ベトナム全土にあるこのバインベオ。同じ名前でも地方によってスタイルは様々です。大きいものは手の平大、小さいものは親指ほど、ごはん茶碗で蒸した厚めのものもあります。また、トッピングやタレも多彩で、冒頭でふれたフエの伝統的なバインベオは、海老でんぶ、ねぎ油、豚の皮がトッピングされ、魚醤ヌックマム(Nuoc Mam)を海老のでんぶを作る際の海老のゆで汁で割ったタレをかけます。 対して北部には、ねぎ油のみをのせたシンプルなものがあり、中部でも海老から作ったトロミのあるタレとごまをかけたものなどがあります。さらに南部になると、地域によってはつぶした緑豆やココナッツミルクをかけて食べるものもあります。 また餅生地も蒸す段階で海老を入れたり、砂糖を入れて甘くしたり、ブラウンシュガーやパンダンリーフで茶や緑の色をつけたり…と実に様々です。 このバインベオに限らず、ベトナム全土を旅すると、町をひとつ移動するだけで、同じ名前の料理でも全く異なるスタイルで出てくることがよくあります。これらの違いを楽しみながら地方を旅するのも、なかなか面白いですよ。 (写真上)フエ風は、プルプルの餅に軽い口当たりの海老でんぶ、クリスピーな豚の皮が口の中で合わさり、見た目だけでなく食感も良い。これはねぎ油をかけないタイプ

丸蒸し餅 / Bánh Bèo

ホーチミン市のローカル店では、餅を型から外して皿に並べてトッピングしているものをよく見かける。具材はフエ同様だが、上に緑豆餡がのる
伊藤忍(ベトナム料理研究家) 2000年より約 4 年間のベトナム暮らしの後、帰国。現在、日本にてベトナム料理教室やベトナム料理店のメニュー開発、執筆を中心に活動。2011年7月に新作『ベトナム×ハノイ36通りグルメ』(情報センター出版局)を出版。詳しくはホームページ(www.vietnamfoodnet.com)を。
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