伊藤忍のベトナムめし大全/第82回 トゥイユーン風雷魚の汁米麺/Bánh Canh Cá Lóc Thủy Dương

banh-canh-ca-loc店によってコシの強弱は様々。こちらはかなりしっかりとした強さのコシがある

ベトナムの麺は、その製法から日本のようなコシがない麺が多いのですが、今回は麺料理「バインカイン/BanhCanh」(Banh=生地から作るもの、Canh=汁物)」のひとつであり、ベトナムでは数少ないしっかりとしたコシがある麺をご紹介します。 「麺」と言ってしまいましたが、少し説明を。ベトナムでは、「汁と一緒に食べる、生地から作る固まり」という分類でバインカインという名前が付いています。ベトナム南部から中部にかけての広い地域で食べられる、フォー(Pho)やブン(Bun)のようなメジャーな麺に属さない、麺に似た形状で汁に入れて食べるものが「バインカイン」と呼ばれています。ですので、同じ名前でも、麺の原料や製法、質感、一緒に食べる汁のダシや具材は地域によってまったく異なります。 今回の料理は、中部フエのトゥイユーン(Thuy Duong)という地域に伝わる「バインカインカーロック/Banh Canh Ca Loc」(Ca Loc=雷魚)です。 こちらの麺の原料は米。浸水させた米をすりつぶし、水と混ぜてしばらく置き、沈殿した粉砕後の米のみを取って水気を切ります。これに湯を混ぜ、練って生地を作るのですが、この生地を使った麺の成形の仕方に面白い特徴があります。 それは、生地を伸ばして筒に巻き付け、中国の刀削麺のようにナイフで生地を削りながら湯の中に入れてゆでること! 注文の度にピュンッピュンッと生地を削って鍋に飛ばし入れる様子が実に見事で、思わず見入ってしまうほど。フォーやブンの様に事前に加熱された麺と違い、少量の水と練って作る生地であること。また、ナイフで生地を削る際に斜めにナイフを入れることで厚みができ、ゆでた際に端が柔らかなのに中はコシが残る様に仕上がります。 さて、この麺と食べる汁ですが、雷魚からダシを取ります。雷魚を丸ごとゆでて皮を除いて身を粗くほぐし、骨や頭などは、細かくなるまですりつぶして魚のゆで汁に加えて煮ます。余すところなく雷魚を使って取るダシは、優しく深い旨味があります。汁に調味料で味付けし、ゆでた麺にほぐした雷魚と刻んだ青ねぎを乗せれば出来上がり。コショウや豚の脂で炒めた唐辛子を加えるなど日本の麺料理とは違う味ですが、コシのある麺と魚ダシという共通点があるからか、日本人好みの味に感じるのです。

lam-banh-canh生地を巻きつけた筒に対して縦に、麺生地の断面に対して斜めにナイフを入れる

伊藤忍 いとう しのぶ ベトナム料理研究家。2004年より日本にてベトナム料理教室『an com』を主宰。ベトナム料理店を広めるために料理教室のほか、テレビ、ラジオ、雑誌、書籍などで幅広く活躍中。 ウェブサイト:www.vietnamfoodnet.com
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