末吉清一さん/琉球ガラス伝統工芸士

末吉清一さん(琉球ガラス伝統工芸士)

ベトナム人職人にも 創作の悦びを知ってほしい

「趣味の夜釣りの最中に、沖縄の空を見上げてふと思ったんです。この美しさを、なんとかガラスで表現できないかと」。 ガラス工芸といえば、透明感のあるものが一般的。しかし末吉清一さんは2年間の試行錯誤の末、「銀河シリーズ」と名付けられた漆黒の作品群を生み出した。宇宙を思わせる深い黒ガラスに、流星をイメージした金銀の粉を散らした、彼の代表作のひとつだ。 沖縄生まれの末吉さんは高校時代に、家から近いという理由で、琉球ガラスの工房でアルバイトを始めた。次第にガラスに魅せられ、大学時代もアルバイトを継続。工学部で電気について学んだが、結局、就職先にガラス工房を選んだ。 「ガラス工芸の奥深さは一言で言い表せません。最も面白いのは、作り手の心境がそのまま作品に表れることです。よく私の作品を観てくれている人には、『今、恋をしてるんじゃないの?』とか『失恋したでしょう』と、当てられてしまうくらいです」。 琉球ガラス作家として数々の賞を受賞し、脂の乗ってきた1996年に初来越。所属する「琉球ガラス工芸協業組合」グループの「シャトーヒルズ株式会社」のハノイへの進出に伴い、ベトナム人ガラス職人を育成するためだった。同社では、複数の職人が交代で来越して指導する体制をとっていたため、彼も日本とベトナムを行き来する生活に入った。当時をこう振り返る。 「あの頃のベトナムは工業ガラス製品が主流で、ハンドメイドを価値あるものとみなす考え方がありませんでした。ガラスが好きで志願してくる沖縄の新人に比べ、ハノイでは『近場の職場』として就職する人がほとんど。指導は大変でしたが、みんな勤勉で辛抱強く手先が器用。ガラス工芸に向いていますね」。 休憩時間を十分とるとはいえ、ガラス細工は蒸し暑い工房で根気の要る作業を強いられる。しかし挫折する者はほとんどなく、この16年間で多くの職人たちが育ってきた。特にここ数年の彼らの成長に手応えを感じた末吉さんは、創作ガラスに挑戦させることにした。 「ガラス工芸の本当の面白さは、創作にこそあります。ベトナム人の職人たちにも、この悦びを味わわせてあげたいんです」。 淡々とながら、力のこもった口調で語る末吉さん。まずは10年以上在籍する職人のうち、特に見込んだ数名に取り組ませてみた。 「日本では、小学校の時間割に必ず図画工作が組み込まれ、誰もが小さい頃から創作というものに慣れています。でもベトナムでは、創作がどういうものかわからない人も多いのです」。 まずはテーマを与えて作らせることから始めたところ、最近では自分でテーマを見つけられるようになってきた。 「ある程度技術がつくと、自分の作品を創作するようになる日本人に比べ、ベトナムの職人たちは、私たち日本人職人のデザインを製品化する作業を長年積み重ねてきました。結果的に、基礎の厚みという点では日本人より優れており、手応えを実感しています」。 経済発展を遂げ、富裕層も増えたベトナム。ガラス工芸も大ぶりのものなら、芸術品として買い手がつくのではと、末吉さんは予測する。琉球ガラスの魂を受け継いだベトナム人ガラス工芸作家の誕生は、きっともうすぐだ。
プロフィール 末吉清一 すえよしきよいち 1961年、沖縄県生まれ。琉球大学工学部卒業。高校時代より琉球ガラス工芸に打ち込み、1985年に「琉球ガラス工芸協業組合」に入社。沖縄の大自然や人間の感情の起伏をガラスで表現することで知られる。日本民藝公募展優秀賞や九州アート展奨励賞など受賞多数。2002年、沖縄県工芸士に認定。作品『恒星』は2009年、沖縄の伝統工芸品としては初めて伊勢神宮に奉献された。
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