カンボジアの宮廷古典舞踊で使われる冠には様々なものがあるが、アプサラの舞で使われるものは、6つの花輪と3つの塔がついた冠。素材は金や銀、青銅などがあり、青銅製のものでも冠だけで400US$、手首、足首、腕などにつける輪や首飾りなど、全てを合わせると、その値段は1000US$を超すという、(右)先人たちの知恵が詰まった、彫金道具。しかし、道具自体の作り方がわからず、現在使用しているものが使えなくなると、作れなくなってしまうという
舞台を彩る匠の世界。
2代目が生む、天女の輝き。
|
|
|
|
14歳の頃から父親について彫金を始め、ポルポト時代が終わった後、芸術大学で本格的に彫金の技術を学んだというシノムさん。大学卒業後の1983年より教師となり、現在は装飾品の研究、復元に力を注いでいる |
|
|
|
|
|
現在シノムさんの下でその腕を磨く弟子たち |
|
華やかなカンボジアの古典舞踊。しかし、その華やかさは舞踊家たちの踊りだけではない。装飾品や流れる楽曲、そして楽器すらもまた、ひとつの芸術といえる。
ソム・シノムさん(45歳)は、カンボジア王立舞踊団の装飾品製作を手がける彫金師。彼はプノンペン王立芸術大学の教師でもあり、古典舞踊にまつわる装飾品の研究を続けるかたわら、彫金師としてその腕をふるっている。
「王宮にあった装飾品は、内戦時にその6割が略奪されてしまいました。舞踊で使われる冠も、王宮内に残っているのは、カンボジア版ラーマーヤナである、リアムケーの上演に使われるラーマ王子役のものなどが4つだけ。当時、彫金師たちもまた弾圧され、生き残った私の父が、記憶を頼りに現在舞踊団で使われている冠を復元したのです。」
彼の父親であるソム・サマイさん(82歳)は、王立芸術大学で彫金を学び、その腕前を認められ、舞踊団お抱えの彫金師となった。王立舞踊団のムタさんとも、彼女が14歳の頃からの友人。シハヌーク前国王の娘であり文化芸術大臣、そして舞踊団の顧問でもあるデヴィ王女もシノムさん親子の腕にほれ込み、彼らの店は舞踊団御用達とされたという。
「父の影響を受けて、私も彫金の道に進みました。現在私の元には5人の弟子がいますが、7年ほど学んでようやく1人前になれるこの世界。つらい作業も多く、辞めてしまう人が多いのが悩みの種ですね。」
アプサラの踊り子1人分の装飾品を作るのに約3ヶ月かかる。地道な作業だが、そうした彼らの手作業が、華やかな舞台を支えているのだ。
|