<南北統一鉄道が行く>
列車の音を聞きながら、
見知らぬ人と過ごす夜
19時06分発。のはずが、見事なまでに40分遅れ。チャムの遺跡で有名なファンラン(Phan Rang)の隣町、タップチャム(Thap Cham)。昨晩、夕闇の海に沈む太陽を眺めているうちに到着し、一晩の宿をとった小さな町だ。S列車以下の鈍行列車しか停車しないタップチャム駅は、出発間際にも関わらず、待合室は人影もまばら。だが、そんなのんびりムードも田舎駅の良いところ、なのだろう。
今晩は、タップチャムからベトナム屈指のリゾート地ニャチャンを抜け、ダナン、そしてフエを目指す。車内では夜食時を狙ってハム入りのおかゆが売り出され、ニャチャンから乗り込んできた船の技師は、「仕事が落ち着いたから、一時故郷のダナンに帰るんだ。今回は娘も一緒だし、旅行みたいなもんさ。仕事があるときはとても忙しいから、たまにはのんびりしないとね。」と、楽しそうに笑った。
夜も11時を過ぎると、聞こえてくるのは地響きのような乾いた車輪の金属音と、窓から吹き込む風の音だけ。蛍光灯の光の中、床にござを敷き、シートの下に潜り込んで眠る人もいる。ファンランと同じくチャムの遺跡が残るクイニョン(Quy Nhon)の最寄駅ディウチー(Dieu Tri)を過ぎたころには、時計は既に夜中の2時を指していた。巡回する乗務員が、通路に投げ出された足や腕を慣れた足さばきで器用に避けていく。一体どこで何をしている人なのか、全く知らない者同士が同じ時間を過ごす夜。
私はなかなか寝付かれず、窓の向こうに揺れる小さな家々の明かりをじっと見ていた。一晩寝れば、翌朝にはダナンに入る。中部最大の都市として栄え、世界遺産であるホイアンへの玄関口としても有名なこの街。飛行機ならばホーチミン市から1時間程で着けてしまう。だが、そんな街も列車でなら1日以上。なんだかとても遠いところへ来た気がするから不思議なものだ。 |