<南北統一鉄道が行く>
列車に揺られまどろむ昼下がり
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品物充実。車内販売は乗客に大人気 |
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まどろみの午後。列車のリズムにあわせ、ゆっくりとした時間が流れる |
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鉄板剥き出しのタラップを上ると、天井からぶら下がった9台の大きな扇風機がゴウゴウと唸りをあげていた。その下に並ぶのは、木製のシート。われ先にと乗り込んだ先客たちは、すでに荷物を棚にあげ終わり、早くもシートに寝転がっている。
1号車・席番号38。「外国人用」とわざわざ書かれたチケットを手に狭い通路を進むと、2人がけのシートが向かいあう一角に私の席はあった。荷物を棚に上げ、ひんやりとしたシートに座る。「今はまだ大丈夫だが、これは後々辛そうだ」と、ほぼ直角の背もたれに、つい、ため息が出た。
発車の笛こそなかったが、ほぼ予定時刻通りに駅を出発したS6号は、線路ギリギリにまで迫った家々の間を抜けていく。赤ん坊をあやす母親、テレビに夢中のおじいさん。列車の窓に備え付けられた投石よけの金網ごしに見る街並みは、普段見慣れたものとなんだか少し違う。街を、そして家並みを、そっと裏側から覗き見るような感覚に、私はしばしの間ふけっていた。
乗務員がチケットを確認し終わると、すぐに大きな台車を引いた車内販売員がやってきた。お菓子や水、パンなどを詰め込んで、ガラガラと音をたてながら狭い通路を器用にすり抜けてくる。旅のお供にと、トウモロコシを揚げたおやつと水を1本。水はラベルに「VR」と記された、ベトナム鉄道総公社「Vietnam Railways」のオリジナル・ミネラルウォーターだ。その後もヨーグルトや豚肉の串焼きなど、次から次へとやってくる。列車には食堂車が連結されており、串焼きもその厨房で焼かれたばかりのアツアツだ。
ベトナムの列車は便名の数字が小さいものほど停車駅が少ない。所要時間も短くなり、最速のSE列車はホーチミン市〜ハノイ間を約29時間30分で結んでいる。またSE、E、Sの他にも各地方都市間を結ぶローカル線があり、路線にはS列車でさえ停まらない小さな駅もたくさんある。
気がつくと窓の外は一面のトウモロコシ畑になっていた。つい先ほどまでの家々は消え、周囲は見渡す限り緑色の世界。小腹を満たしたベトナム人も、うつらうつら昼寝を楽しんでいる。窓に足を投げ出したり、1つのシートに寄り添って横になったり。全く器用に寝るものだ。開け放たれた窓からは、湿気を含んだ南国の風が心地よく吹いてくる。食べて寝て、日々の生活そのままの彼らの姿につられてか、いつしか私も夢の中へ。ローカル駅を軽快に通過して、緩やかな丘が続く畑の中をS6号は走り抜けていった。 |