北の果てを旅する
北の果てを旅してきた。といったらきっと雪の吹きすさぶ荒涼とした大地を想像することだろう。しかし、私が旅した「北の果て」はTシャツ一枚で過ごせるベトナム北部のことである。サイゴンを生活拠点としていれば、ハノイよりさらに北上した中国国境近くはベトナムの「果て」のような存在に感じてしまう。
中国国境の街・モンカイ(Mong Cai)をとりあえず目的地とするのが今回の旅。ハノイからバスでハロン湾へ。そこから海沿いをバスでさらに北上し、カイゾン(Cayi Rong)、チャーコ(Tra Co)と旅行者に馴染みのない小さな街を訪ね歩く。カーキ色のヘルメットをかぶっている男が多いとか。言葉に北部訛りがあるとか。写真を撮りながら、風景、空気、人、食事など、同じベトナムでも南との微妙な違いが感じられ面白い。
ハロン湾を離れて以来、英語はほとんど通じず、私を外国人と見ると「ニイハオ」と話しかけられる。中国はすぐそこにある。そして、到着したモンカイは味も素っ気もない新しいだけの街。国境の街ならではの活気はあるが、旅人の心をくすぐる何かがあるわけでもない。とりあえず日帰りの中国旅行を試みる。中国の街をぶらつくと、国境を越えて果物を売りにやって来るベトナム人を見かけた。中国人たちに適当あしらわれ、どう見てもそれほど稼いでいるようには見えない。
そんな様子にベトナムと中国の力関係を垣間見たようで、ベトナム贔屓な私としては気分が悪い。ギョーザと肉まんで腹を満たし、ベトナムへ戻る。中国滞在、わずかに3時間。さっきまでは味気ないと思っていたモンカイの街に、なぜかホッとしてしまう私だった。
文・写真=福井隆也(ベトナム在住写真家の日々是撮影)
ブンタウにて
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(2005年7月15日 金曜日 9:22JST更新) |