見事な夕焼けが見れたら、どんな町も素敵になる
東京から電車で一時間とちょっとで、日帰りでも行ける気軽な海といえば湘南海岸だ。名前は全国的に知られているから何かとちやほやされているが、近所に住む私はさほどありがたみを感じていない。
サイゴン在住者となった私はそんな湘南海岸のイメージをブンタウに重ねている。近いけど食指が動くことなく、海に行こうかな思えばニャチャンかムイネーを選ぶ。海底油田のおかげで、それなりに潤っている町。ソビエト連邦が崩壊した今でも寒い母国に帰るよりこっちの方がいい、と思ったロシア人たちの居住区がある。海水浴場としては限界近くまで汚く、シーフードは豊富だけど、観光地プライス。私の頭の中で出来上がっているブンタウという町のイメージはこんなものだ。
ところがどういう風の吹き回しか、そのブンタウへ泊まりがけで行くことになった。もちろん何も期待はしていない。高速船に乗ること一時間半、あっという間に到着。ホテルにチェックインし、お決まりのシーフードを食べ、ロシア料理を試し、サイゴンよりはちょっと静かな町を散歩し、夕方の海辺に出るとちょうど日が沈もうとしていた。
日常に追われているサイゴンでは、沈む夕日をゆっくり眺めるということはそうそうない。泳ぐ気にはなれないブンタウの海も、夕日に染まればなかなかのもの。「悪くないじゃない?」程度の評価を与えようとしていた矢先、辺り一面が夕焼けに赤く染まった。これほどの夕焼けは滅多にお目にかかれるものじゃない。夢中で写真を撮りまくった。そしてもちろん、ブンタウの評価は最上級となった。
文・写真=福井隆也(ベトナム在住写真家の日々是撮影)
ブンタウにて
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(2005年5月10日 火曜日 11:07JST更新) |