絶景に刺さる一本のトゲ
ダナンからハイバン峠を越え、しばらく下っていくと突然視界が開ける。その先に見えるランコー村は、入り江と岬と白い砂浜が魅力のそれはそれは美しいところだ。
ところが数年ぶりに訪れると、いつの間にかそこに巨大な橋が出来ていた。国道一号線最大の難所であるハイバン峠を貫くトンネルの出入り口である。トンネルを作っているということは聞いていた。でも、まだまだ先のことと高をくくっていたら、この有様だ。橋だけではない。片側二車線の立派な道路も完成し、まもなく開通する。そうなれば、ダナン−フエ間の交通事情は飛躍的に変わるだろう。大型トラックが喘ぎながら峠越えをする必要もなくなる、誠に価値のあるものなのだ。
だが、この橋はどうにも存在が目立ちすぎる。自然だけが取り柄の小さな村にとっては、醜悪なトゲのように感じてしまう。例えばサイゴンで新しいビルが一つ建ったとしても今さら街全体の雰囲気がガラリと変わるということはない。
橋のない頃を知っている私には違和感のある風景なのだ。しかし、人工的な建造物と自然な風景の共生は、見慣れてしまえば絵はがき的な美しい風景として受け入れられていくに違いない。こうして、ベトナムの風景は日々変わってゆくのだろう。
文・写真=福井隆也(ベトナム在住写真家の日々是撮影)
ランコーにて
「ベトナムめしの旅」 伊藤忍×福井隆也の食紀行本・好評発売中!
(2005年4月1日 金曜日 11:37更新) |