海外旅行はバスに乗り…
ハロン湾に面したカフェで席に着くと、出されたのは中国語のメニュー。漢字だから読めないわけではないが「俺は中国人じゃないんだけど」という意味もあって英語メニューに買えてもらう。ベトナム人ではない東洋人を見たら中国人に違いない。そう地元の人たちが思いこむのも無理のないほどハロン湾には中国人の観光客はいっぱいやって来る。中国との国境は、ここからわずか100kmほど。東京から箱根の温泉に行くような気軽さでよその国へ行けることがうらやましい。
海外旅行に行くぞ!という気負いもたいして持たない彼らは、至って普通の身なり。言い換えれば洗練もされていない田舎臭い奴らとなる。土産物屋で値切り倒し、安食堂で食い散らかし、世界自然遺産のハロン湾にゴミをばらまき、意気揚々と国へ帰っていく。そんなのは偏見だとは言わせない。間違いなくここらでお目にかかる中国人旅行者とはこんなものなのだ。
そんながさつな輩に混ざると、日傘を差した中国娘はひときわ目を引いた。新婚旅行で来たのか連れの男性にやたら甘えた声で写真を撮るようにせがむ。うだるような暑さも、周囲の好奇な視線もお構いなし。世界は二人のためにあると信じて疑いなし。そんな雰囲気がうらやましくも、おかしくもある。
ハロン湾での中国人を見ていると、海外に出始めた頃の我が同胞を自虐する言葉を思い出す。旅慣れてしまった自分が傍目にはどう映っているのだろう。ちょっと鏡に向かってみようかと思う。
文・写真=福井隆也(ベトナム在住写真家の日々是撮影)
ハロン湾にて
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(2005年1月21日 金曜日 19:04更新) |