牛の列が目の前を横切るという日常
見るもの全てが珍しく、夢中になって写真を撮りまくったのも、今は昔。ベトナムで目にする様々なものが当たり前の日常的なものになって久しい。もし、在住者でなく短期間の旅行でベトナムにきていたら、きっと違う視線でこの国を見ることができるのかもしれない。しかし、そんな思いも日々の生活に流されてゆくだけ。
ある時、喧噪のサイゴンを離れ、ムイネーに向かった。リゾート地としてすっかり様変わりした海岸線の風景にちょっと憂いを感じながらも、洒落た店でシーフードやイタリアンに舌鼓を打つ。
早朝、海岸沿いに散歩に出れば、地引き網を引き、即席の朝市が立ち、村人達が集っている。そんな様子を観光客として冷やかしながら散歩を続け、海を見下ろす丘に腰を下ろす。まだ、それほど強くない日差しの下、ぼんやりしているとゾロゾロと牛が列をなして私の前を通りすぎる。牛を追っているのは小学生のくらいの少女たち。よくあるベトナム的な日常の一コマに、「とりあえず撮っておくか」とシャッターを切る。
サイゴンに戻るカフェバスの乗客のほとんどは欧米人だった。そのバスの行く手を牛の行列が遮った。すると車内はしゃいだり、カメラを取り出して写真に納める者たちでやんやの大騒ぎとなる
そうか、こういうものはそんなに珍しい光景なのか。ベトナムに来て日が浅いだろう欧米人達に新鮮な好奇心を教えられた思いの私だった。
文・写真=福井隆也(ベトナム在住写真家の日々是撮影)
ムイネーにて
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(2004年12月14日 14:42更新) |