早朝だけ、私のものになる街
強い日差しが照りつけているのにチャンフー通りを歩く人の流れは途切れることはない。何もこんな暑い時間に、そんなに一生懸命歩かなくてもよさそうな もの。と、時間がいくらでもある私はカフェに陣取り高みの見物。ここは古い町並みが世界遺産に登録された、一大観光地ホイアンだ。狭い旧市街の中には旅行者向けのレストランや土産物屋などがズラリと並び、さながら テーマパークの様相を呈している。
こんなに旅行者が溢れかえっているけれど、昔はそうじゃなかった。今のこの街の姿は私には嘆かわしいもの。すっかり金のなる木となったホイアンには 様々な思惑が交錯している。まだまだホテルが足りないという旅行業者。「ちょっと高いんじゃないの」と思う数軒分が抱き合わせになった古い民家の拝観 料。うまくもなくまずくもない旅行者向けのレストランの数々。でも、何かしら観光と関わりのあるホイアンの人たちは旅行者がいっぱい来ることはよいこ と、という。訪れた人たちは楽しそうに町を散策し、旅行代理店も、土産物屋やレストランも潤い、みんなが喜んでいる。どうやら嘆き悲しんでいるのは私だ け。それでも、まだ私はこの街が好きだ。
眠い目をこすりながら早朝の町に出る。市場に野菜を売りに行くのか。天秤棒を担いだおばあちゃんが、サンダルでひたひたと私の前を通り過ぎる。10年 前のホイアンと変わらない静けさがそこにはあった。朝のほんの一瞬だけ、この街は私のものになる。
文・写真=福井隆也(ベトナム在住写真家の日々是撮影)
ホイアンにて
(2004年11月11日 14:08更新) |