笑顔をもらうまでに
もちろん入国審査なんてない。でも、何となく別の国に来たような違和感を覚えるのはなぜか。空港から街に向かう一時間ほどの道のり。水田がある。牛がいる。農民がいる。バイクが走っている。見慣れたベトナムらしい光景が車窓を流れてゆく。でも、何かが違うと感じてしまうハノイ。
店や食堂に入っても、あからさまな好奇心を向けてこない。南だったらカメラをぶら下げた外国人をほっておかないだろう状況。そしてそんな好奇心を利用してカメラを向けるのが、私の写真を撮るスタイルの一つ。ところがハノイでは勝手が違うから、どうも人にカメラを向けにくい。南の人たちと比べたら取っつきにくいというのが正直なところ。でも、職業柄写真を撮らぬわけにはいかないから、及び腰ながらもとりあえずシャッターを切る。被写体は市場で見かけたおばちゃん二人。ザボンを買おうか、買うまいか、品定めをしている様子。「あら、写真撮ってるわよ。」「あんたポーズとりなさいよ」「いやよ、恥ずかしい」などと会話が交わされたのだろうか。笑顔の代わりにおばちゃんは、カメラの前にザボンを差し出してきた。やるじゃないおばちゃん!笑顔より素敵な被写体に私は感謝する。うち解けるまでに若干の間が空くのがハノイの人たち。なんか日本人みたいでもある。
味付けが違う。気候が違う。言葉が違う。人の気質が違う。いろいろな違いがあるようだけど、ハノイは紛れもなくベトナム。南こそベトナムと思いこんでいる私には新鮮なハノイの旅であった。
文・写真=福井隆也(ベトナム在住写真家の日々是撮影)
ハノイにて
(2004年8月5日 7:42更新) |