放課後のワクワク
子供の頃、放課後が待ち遠しくてしかたなかった。それはもちろん遊びの時間だからだ。そんな一番楽しいはずの時間に家の手伝いをするなんて考えもしなかった。それほど遊び呆けていたような気がする。それが私の日常だった。 でも、フエの子供たちは私より出来が良いようだ。コムヘンというフエ名物のシジミご飯を作っている家を訪ね歩いた時のこと。夕方になると、翌朝、朝ご飯として売るための準備をあちこちのコムヘン屋さんが始める。どの家でもおばあちゃんから子供まで、家族総出で仕事をしている。
写真に写ってくれた一家もそんな一軒。おばあちゃんとお母さんと二人の小学生くらいの子供が働き手。コムヘンの具になるバックハーという芋茎を細かく刻む作業を黙々と続けていた。この道ウン十年であろうおばあちゃんの腕前にはとうてい及ばないけど、この娘だって立派な働き手。慣れた手付きで作業をこなしていた。一人前の労働力と見なされている友達なんて私の周りにはいなかったはず。と感心しながら彼女の作業を拝見させてもらった。日が傾き涼しくなってきた頃。赤い夕日を浴びながら無邪気に走り回る子供たちがいる。一方コムヘン屋の子は、懸命に芋茎を刻む。本当はもっと遊びたいのかな? でも、家の仕事もけっこう楽しそうにしてるし。などと私は勝手に考える。でも、今の日本の子供たちは塾通いが当たり前。だから私が感じていたような放課後のワクワクなんてもう無縁なのかもしれない。日本とベトナムの子供たち。どっちの放課後が楽しいのかな。なんて考えてしまったコムヘン屋の娘の仕事っぷりであった。
文・写真=福井隆也(ベトナム在住写真家の日々是撮影)
撮影地(Fue)
(ベトナムスケッチ2004年1月号) |