清楚は健在か?
白いアオザイを着た女学生。ノンをかぶり、上着の裾をちょいとつまんで自転車に乗るその姿は、それはそれは美しいもの。まかり間違っても日本の女子高生にはマネのできない清楚な姿を見せてくれる。多くの男性がそれを魅力的と感じるだろうし、女性だって美しいと思うだろう。でも、私から言わせてもらえばサイゴンのアオザイ娘は終わっている。ノンは田舎臭いからとかぶらず、自転車ではなくバイクに乗る。脇のスリットからのぞく白い素肌も大切な魅力の要素。なのに、そこからあまりにふくよかにはみ出しているのはかなり興ざめ。アオザイに合わせた体型を維持するために涙ぐましい努力をしているという話は、今は昔のことなのか。子供たちの肥満やら近眼やらも、先進国並みの問題になっているらしい。豊かさを得るために失われてゆくのは、昔ながらの街並みだけでないらしい。そんなわけで、サイゴンのアオザイ娘にはちょっとあきらめている。
でも、ひとたび都会を離れれば、まだまだアオザイ幻想は健在のようだ。ホイアンの旧市街をさっそうと自転車で駆け抜けてゆく彼女たちは美しかった。さすがにおしゃれに気を遣う年頃に、ノンは受け入れられないようだ。でも、船に乗り、竹橋を渡り学校へ向かう彼女たちの姿は、幻想を抱く私を十分に満足させてくれた。その姿を彼女たちに気付かれないように、控えめに撮らせてもらった。ベトナムでもっともフォトジェニックな被写体。いつまでもそれを美しく着こなして欲しいと願うのは、写真家としての身勝手な願望なのだろうか。
文・写真=福井隆也(ベトナム在住写真家の日々是撮影)
撮影地(Hoi An)
(ベトナムスケッチ2003年12月号) |