真っ赤なおばさん
よくカメラをぶら下げて歩いている。そうやっているだけで「撮ってくれよ!」と獲物が引っかかってくるからだ。さりげないベトナム人達の笑顔も私にとっては大切な被写体。飛び込みは大歓迎である。だけど、たいがいはお兄さんか無邪気な子供たち。まかり間違ってもきれいなお姉さんが「私を撮ってね」などとはならないのはちょっと残念。やっぱり女性はシャイなのか。
朝食を食べるために寄った、とある市場の屋台でのこと。立ちのぼる湯気に誘われてバインカン屋のおばちゃんの前に腰を下ろす。手際よく麺を茹でる姿に、さりげなくカメラを向けたつもりだった。だけど、麺をすすっていたお客さんに撮られていることをはやし立てられ、おばちゃんはびっくり。で、見る間に真っ赤になってしまった。「でも、イヤってわけじゃないのよ」とばかりに笑顔を見せてくれる。まるで小娘のように、はにかむおばちゃんだった。こんな笑顔一つで、私の撮る写真の出来が左右されるからおもしろい。
でも本当に写りたがらない人こそいい被写体に見えたりするから困ったもの。例えばなんとなく撮りにくい雰囲気が漂う、夕日の差し込むカフェにいい感じで座ってる2人…。カメラを構えようかどうしようか躊躇してる間にお目当ての被写体はさっさとどこかへいってしまったり、ジロリとにらまれて「はい、ごめんなさい」なんてことも。
とにもかくにも私は、毎日のように重いカメラをぶら下げて街に出る。そうすればいつかは素敵なお姉さんが「撮ってね」と声をかけてくれるかもしれないと思いながら。
文・写真=福井隆也(ベトナム在住写真家の日々是撮影)
撮影地(Dong Hoi)
(ベトナムスケッチ2003年11月号) |