笑顔の裏の裏
子供は、最も絵になる被写体の定番ではなかろうか。もちろん若い女性もすばらしい被写体であることに異存はないが、今回語らせてもらうのは子供のこと。純粋無垢な子供の笑顔は撮っていて気持ちがいい。でも、一筋縄に語れないのがベトナムの子供たちのおもしろさだ。というのは子供らしからぬ知恵をつけた輩のこと。写真を撮ってくれとせがんだあげく、ボールペンをくれとか、記念に日本のコインをくれとか、なにがしかの報酬を求めるというおまけがついてくる。でも、写真家としてその子が撮りたい被写体であればなんとしても撮りたいと思うもの。ココナッツジュース売りの少年を撮るために、飲みたくなくても買ってから一枚撮らせてもらったりということもあった。写真を撮ってるわたしも彼らをネタに生計を立てているわけだから、お互い様と納得の交渉成立である。
ところで今回の写真。思い切り大きな口をあけて笑っているこの子はうれしいことになにも求めてこなかった。長めのレンズを付けて、カメラを向けると、きょとんとした顔でしばしこちらを観察。やがてケラケラ笑いだし、ご覧のような笑顔になったというわけだ。純粋に写真を撮られることを喜んでいる様子が、10コマくらいにわたって写された中の一枚だ。他人にカメラを向けることがトラブルの元になってしまいそうな今の日本。何かしらの見返りを求めてきたとしても、まだまだベトナムの子供たちはかわいい。これからも思い切りカメラを向けさせてもらうので、そのつもりでいてほしい。
文・写真=福井隆也(ベトナム在住写真家の日々是撮影)
(ベトナムスケッチ2003年6月号) |