少し長めのコーヒーブレイク
目の前にあるのにまだ飲めないもどかしさ。それは、アルミのフィルターごと出される、ベトナムスタイルのコーヒーのこと。ぽたりぽたりと一滴ずつ落ちてくるのを気長に待つしかない。それは、ドリップされるのを待っている間の暇つぶしに、カメラを向けたりする私のお気に入りの被写体の一つでもある。「そんなにおもしろいものなのかい?」なんて周囲の視線を感じながらも、飽きずに撮っている。
そうこうしているうちに、コーヒーが落ちきる。熱いうちに砂糖を入れ、氷の入ったグラスに一気にそそぎ込む。そうして冷たいコーヒーがやっと出来上がる。しかし、ここでゴクゴクと飲むものでもない。かなり苦みの利いたベトナムコーヒーは程良く氷が溶けたくらいが一番おいしい。約束の時間までに間が空いてしまったからちょっと一杯というと、思いがけず時間を食ってしまうかもしれない。それがベトナムのコーヒーブレイク。
私が好んでいくカフェは、路上に椅子とテーブルを並べただけの簡単なもの。暑さをやり過ごすのにはエアコンのないこんなカフェがいい。どれだけボケッとしていても、追加注文をせっつかれることもない。飲み終わったグラスに注ぐためのお茶まで出してくれるのだから、まだまだ席は立てない。こうやってゆったりとすごしていると、変化の激しいサイゴンに踊らされずにいられる気がする。気が向いたときにこうしてコーヒーを飲んでいられる、いつでもそんな時間を持っていたいと思う。
文・写真=福井隆也(ベトナム在住写真家の日々是撮影)
(ベトナムスケッチ2003年5月号) |