視線の先に見えるものは
ホイアンの川べりにあるカフェでうだうだとお茶をしてる私の前を、行ったり来たりする少年がいる。彼は中部の名物麺ミークアン屋の出前。注文をとりにひとっ走りしたあと、麺の入ったどんぶりを大事そうに届けにいく。暇をもてあましていた私は「よく働く子だなあ」と、すっかり感心して彼の行動を観察させてもらった。
彼のように小さいときから百戦錬磨の客商売をしている子供たちは、ふと大人びた表情を見せたりして、こちらがドキッとさせられることがある。働く子供の多いベトナムでは、よくそんな場面に出会う。もちろん、いいとこのボンボンもいっぱいいて、彼らは日本と同じようにのほほんとした少年時代を過ごす。日本の子供たちと違うのは、当たり前のように女中さんがいる家に育った彼らは、自分の身分に少しだけ優越感を持つかもしれないということ。
わたしの少年時代、友達に金持ちはいたけど貧乏な子がいたという記憶はない。みんな中流だと思ってる日本人とちょっと違った感覚を、ベトナムの子供たちは、身につけ育っていくのかもしれない。彼を見ながらそんなことを考えている私もまた優雅な身分だろう。何しろ早起きして撮影に精を出したものの、日中はカフェを渡り歩いたり、ホテルで昼寝をしていた。そして今は、夕暮れ時の撮影までの時間をこうしてミークアン屋の少年の行動に好奇心を抱き、無遠慮にカメラを向けているのだから。
文・写真=福井隆也(ベトナム在住写真家の日々是撮影)
(ベトナムスケッチ2003年3月号) |