ハノイはお好き?
四季があるといえば聞こえはいいが、ハノイの気候は地獄のようだ。だから、ベトナムに住むことを決めた私に、ハノイという選択肢は初めからなかった。一瞬の春を過ぎると、うだるような暑さとサウナのような湿度が待っている。心地よい秋もあっという間に終わると、寒いのにジメジメする冬がやってくる。
旅行で来るだけでも悲鳴を上げているのだから、住むなんて論外のこと。そんなわけでホーチミンに居を構えることとなった。しかし、あくまでもそれは住む場所としてのこと。写真家としてハノイを見る目はまた違う。ホイアンやメコンが好みの私だったが、何気なく撮っていたハノイの写真がなかなかいいのである。そのミニホテルは36通りの路地にひっそりとあった。部屋の窓からは路地で繰り広げられる地元の人々の日常を垣間見せてくれる。私にとってその路地は劇場のようなものだった。
パン売りのおばさんも登場人物の一人。毎朝決まった時間にやってきて焼きたてのパンを売り、常連さんと世間話をして、またどこかへ行く。その光景をホテルの窓からカメラに納めている私の存在など、おばさんは知るよしもない。そんな横着な撮り方をしてもけっこう絵になってしまうのがハノイという街。ファングーラオ通りに宿をとるホーチミン市ではこうはいかない。そんなわけで、ちょっとハノイに惹かれている今の私。いい季節だけハノイに住んでみるか、などと調子のいいことを考え始めている。
文・写真=福井隆也(ベトナム在住写真家の日々是撮影)
(ベトナムスケッチ2003年1月号) |