光本滋実さん
(美容室「ル・ミュウ」オーナー)
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居心地がいい、
そう思えるスペースを作ることが私のこだわり
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プロフィール
光本滋実 みつもとしげみ
1971年、三重県生まれ。美容室を営む実家の跡継ぎだけはやりたくない、という一心で進学。しかし留学先のアメリカで美容師の道に目覚め、大学を中退。ハワイの日系美容学校を卒業後、越僑の男性と結婚し、ベトナムへと渡る。その後、ホーチミン市の人気サロンで勤務を経て、2005年12月31日、美容室「ル・ミュウ(Le Mieux)」 をオープン。
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「自分たちの理想をかなえるには、自分たちでやらなきゃいけない。ベトナムローカルの会社だと、考え方が違う。自分の思ったようにできる環境じゃなければ無理という結論です。」
光本滋実さん(写真右)は堰を切ったように話し始めた。来月出産を控えているとは思えないほどに、その語り口、身のこなしは軽い。
ヘアスタイリストである光本さんが経営する美容室「ル・ミュウ」は、日本語できめ細やかなサービスが受けられると、ホーチミン市在住日本人の間で人気の美容室だ。オーナーである光本さんは以前、同じくホーチミン市で評判のスパ&ヘアサロンでその腕を揮っていた。しかし「お客さんへの付加価値を訴えても、納得してもらえない」と、同僚であった美容師の渋田真弓さん(写真左/スケッチ2003年11月号掲載)と共に、独立に踏み切った。
「お客様は空間や時間に、大切なお金を払ってくださる。雰囲気作りや演出、マナー、サービスなどは、おもてなしをする側として、当然気を使うべきこと。でも、それが理解されなかったんです。店内に滑りやすい箇所があるからと、その危険防止の対策を上司に話しても『まだ事故は起こっていない』との答え。それで自分たちの理想は、自分たちでかなえようと思ったんです。」
とはいえ、店を持つと一口に言っても、そう簡単なことではない。しかし、店の場所が決まってから、約半月の短期間で彼女は開店にこぎつけてしまう。当然準備はバタバタとしたものだったが、不安に思う暇もなかったという。
実は光本さんの実家も、美容室を営んでいる。しかし、長時間・重労働である美容室の仕事に追われる家庭で育つ中、彼女は寂しさを募らせ、ずっと「美容師だけには決してならない」と思っていたという。
「美容室の跡を継ぐのが嫌で進学し、アメリカに留学したんです。ですが、途中で自分のやりたいことがわからなくなって。そんな時、ヨシトーヤというアメリカの有名美容師に声をかけられたんです。すると、彼の美容室で見たカラーリングが奥深く、面白くて。それで美容師になろうと思い、1から勉強するために、アメリカの美容学校へ通い始めたんです」。
ずっと美容師を嫌い続けてきた光本さんだが、偶然の出会いから、彼女もまた美容師の世界へ。そして今では、そんな彼女の中に美容師としてのこだわりがしっかりと培われ、ここベトナムの地で花開いたのだ。
「一番大事なのは居心地がいいな、と思えるスペースを作ること。来ると元気を取り戻せるとか、笑えるとか、ポジティブに感じてもらえればそれが一番。家族、夫婦、カップル、どんな人でも大歓迎です。気楽に立ち寄れる場所で、いろんな国の人が集まり、互いに交流できるような、そんな場所にしたいんです。」
もうすぐ開店1周年を迎える「ル・ミュウ」には現在様々な客層が訪れ、女性はもちろん、男性や家族連れ、夫婦、カップルなども多い。自分たちの理想を掲げ、それをかなえるために独立に踏み切った光本さんと渋田さん。そんな彼女たちが持つ、美容師という仕事への情熱とプライドが、この店には詰まっているのだ。
(2006年12月号/2006年12月12日 火曜日 16:16JST更新) |