＜ベトナム芸能界珍道中＞
愉快・痛快・ウキウキ★SAKAI
第8話：VNのトップアイドル?!「￥マネーの虎」出演！

　それでも全国ネットの力はすごい。俺の下手な歌を聞きたいという物好きも結構いたようで、自費出版したCDを手売りすると、どんどん注文が入ってきた。イベントやライブもテレビ出演以前の３倍に増えた。ちなみに当時のライブのタイトルこそが「愉快・痛快・ウキウキSAKAI」。チケットはもちろん手売り。住宅街を歩き回り、訪問販売までやった。

　さらに外を歩けば、

「SAKAIさんですよね？握手してください♪」

　俺は一時的に人気者となった。そして、俺は天狗になった。

「俺はここにいるよ、みんな見て☆」

とアピールすべく、プライベートでも仕事でも、黄色いジャージを着用。山手線でも、吉野家でもだ。

　1人5役で「SAKAIの虎」というパロディ映画まで作った俺を見て、

「お笑いでいくべきだ」

と周りの人間は、のたまった。だが俺は、

「俺はベトナムのアイドルだぞ。これでも歌手なんだ。歌手。お前ら分かってる？」

と思っていた。今考えると、イタイ。

　しかし、その時の俺は何も見えていなかった。ギャラが発生する仕事ばかり選んでいた。俺はこのまま売れていくんだ、とだけ信じていた。

　そんな時、茨城のホテルで「アジアフェスティバル」と銘打ったディナーショーへの出演依頼があった。

　本番当日、打ち合わせをしていると、イベントの関係者が突然、聞いてきた。

「SAKAIさんはもうベトナムへは行かないんですか？」

「今のところは行く予定はないです」

　さらにその関係者は突っ込んでくる。

「SAKAIさんは素晴らしい歌手だ。もし、その気があれば、私共がスポンサーとなりますので、ベトナムへ行ってもう1度スターを目指しませんか？」

　俺は相変わらずスターという単語とおだてに弱い。しかも日本では完全にスター気取りだ。

「ベトナムでもスターになりたいですね。宜しくお願いします。」

　2004年、スポンサー達と共に俺は再びベトナムへ向かうこととなった。

　師匠とケンカして破門された俺。実は彼らはその事実を知らない。俺のベトナム珍道中はまだ始まったばかりだった。

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（2007年11月号 | 2007年11月22日 木曜日 10:39 JST更新）