| <ベトナム芸能界珍道中>愉快・痛快・ウキウキ★SAKAI
 第8話:VNのトップアイドル?!「¥マネーの虎」出演!
 年が明けた2002年。俺は得意の営業力を生かして、自ら新聞社や各マスコミにぶちあたっていった。 「僕はベトナムで歌手デビューした日本人です。これから日本でデビューしたいと思っています。僕を載せてください。」  ベトナムというのが面白かったのか強引さに負けたのか、地方紙やマイナー雑誌に段々と記事が掲載されるようになっていった。  するとどうだろう、記事を読んだ人たちから声がかかり、ライブやイベントの仕事がどんどん増えていった。そして1年後の2003年には、『マネーの虎』という番組に出演することになった。 この番組は当時、金曜夜のゴールデンタイムに放送していた投資バラエティ番組で、5人の社長を相手に自分の夢をプレゼンし、その夢に魅力を感じた社長に投資してもらうという企画だ。
  この番組に、「ベトナムで歌手としてデビューした日本人アイドルが、日本でCDデビューしたい」という名目で出演することになったのだ。  収録には、もちろん黄色のナイロンジャージと星柄のリュックという出で立ちでのぞんだ。全国ネットの人気番組への出演とあって、心はウキウキ。色んな人に宣伝しまくった。テレビ番組ガイド雑誌に俺の名前と写真が載った時は、思わず5冊以上買ったくらいだ。  放送当日。番組が始まるのを、知り合いのラーメン屋で今か今かと待つ。すると、ナレーションとともに、黄色いジャージで飛び跳ねる俺がテレビ画面に映し出され、タイトルが出た。 「ベトナムNo.1アイドルが日本でCDデビューを目指し851万円を希望」  え!? 俺、いつの間にベトナムでNo.1になったっけ??  確かに打ち合わせの中でハッタリめいたことは話したが、いくら俺でも、 「No.1です」 と言う度胸はない。  だが、番組は始まり、社長たちへのプレゼンへと進行する。俺は緊張しながらも、日本でデビューしたいという熱い気持ちを伝えていた。  すると、俺の気概に惚れたという名古屋の学習塾の社長が100万円を出すという。 「お、これはいけるかもしれない」  詰めた話をして全額出資してもらおうと思った瞬間、別の社長から肝心の歌を聴かせて欲しいと言われた。歌が良ければ、残りの751万円全額を出すと。  憧れのメジャーデビュー、そしてスターへの道がこの歌で開かれる。俺は師匠の代表曲『ローイトティンゼートゥオン/Loi to tinh de thuong』を日本語に直し、SAKAIアレンジしたものを熱唱した。  ……。社長はドン引き。苦笑い。失笑。目線すら合わせない。俺だけがノリノリ。視聴者も引いていたらしい。  誰もが言葉を濁す中、100万円出すと言った社長が、 「ごめん、地獄に落とすようだけど君、歌うまくない」。  全国放送ゴールデンタイムで、まさに地獄へまっさかさま。視聴率はうなぎ上りだったそうだが。  ←前のページ | 次のページ→ (2007年11月号 | 2007年11月22日 木曜日   10:38 JST更新) |