<ベトナム芸能界珍道中>
愉快・痛快・ウキウキ★SAKAI
第2話:みなぎるヤル気と、いきなりの挫折!?
俺の得意技はステージでのパフォーマンス。これには絶対的な自信を持っていた。ざっと見渡すと1000人超の観客。興奮しながら、勢いよくステージに飛び出し、歌いまくり、踊りまくり、飛びまくり。拍手喝采の中、ステージを降りていきながら、俺はベトナム人を圧倒した満足感で一杯だった。
続くWADAも大盛況だったようだ。
「よし! ベトナムでもイケそうじゃん!」
WADAと握手を交わし、意気揚々とサイン会ブースへと急ぐ。しかし、いくら待っても誰もやって来ない。おかしい。何で?
その夜、パフォーマンスのレベルの低さをプロデューサーに指摘された。
俺は「絶対に嘘だ。俺のパフォーマンスは世界でも通用するはずだ」と思っていた。今考えると井の中の蛙だったのだが、その根拠のない自信があったからこそ、今の自分がいるのだから分からないものだ。
翌日は、アイドルを多く輩出していることで有名なHTプロダクションの社長に会うことになっていた。
「この面接がダメだったら日本へ帰国することも考えておいてくれ。」
と言われた俺は、この社長面接に命をかけるべく、歌を練習しまくった。WADAがどうなろうと関係ない。絶対に俺は受かってやる!
HTプロダクション社長面接本番。オフホワイトのシャツに、同系色のズボン、獲物を狙うかのようにギラギラと目を輝かせた社長と対面した。
結果はたった15分で出た。WADAと契約を結びたいと社長が言ったのだ。すかさずSAKAIも売り込むプロデューサーの言葉にも、全く聞く耳持たず。
俺は納得がいかなかった。
「どうしてですか? 理由を聞かせてください。まだ歌も歌ってないじゃないですか。」
片言のベトナム語で社長に聞いた。
「君の顔は好みじゃないんだよ。」
俺の中で何かが崩れ落ちた。言葉も出ない。20年近く生きてきて最大の屈辱を受けた気分だ。俺は顔だけは誰にも負けたくないし、負けていないと思っていた。その自信が、たった数分で崩れ落ちた。
どうやらWADAは、今後はHTプロダクションの寮に引っ越すようだ。それから数日間、俺は外出をすることもなく「帰国」の2文字と対峙するしかなかった…。
文★SAKAI
協力★kickey、菊池紘子
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(2006年11月号/2006年11月23日 木曜日 13:23JST更新) |